約 2,787,425 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2387.html
ロリコンとは何か? 辞書的な意味ではロリコンとは、幼女や少女に対して抱く男性の性的嗜好、もしくはそういった性癖を持つ人物の事を意味する。 おそらくこの少女の求める答えはこういった明確な意味の回答なのだろうが、果たしてこの事を告げるのはなんとも憚られた。 というより………、 (なぜそのような事を聞いてくる? 一体何があったんだ?) 思考の海にいくら沈もうと答えは出ないし、もちろん状況を打破する事もできない。 窓の外に見える夕日は、そんな彼の姿を嘲笑うかのように悠々と沈んでいった。 リリカルなのはARC THE LAD 『第二話:ミッドチルダの車窓から(前編)』 「なかなか見つからねぇな………」 情報端末を操作しながらエルクはつぶやいた。 場所は自分のアパートの一室。 窓からは朝日が差し込み手元には自分で淹れたコーヒー。 一見清々しい朝の風景のようだが、当の本人は大分疲れた様子である。 普段は勢いよく立ち上がっている髪も、心なしか幾分萎びている様であった。 その原因は昨日受けた依頼にあった。 今エルクは二つの依頼を受けている。 その内の一つであるお届け物、その届け先のティアナ・ランスターの情報を得ようとしているのだがなかなかうまくいかない。 「もっと詳しく言ってくれよな………」 生憎会話する時間が少なすぎて分かるのは唯一名前のみ。 一応依頼者であるティーダと呼ばれていた男から、取り上げたまま持ち帰ってしまったデバイスが有るには有るが、知性型ではなかったため専門の機材がないと情報を得られない。 そのため悪いと思ったが依頼品の手帳の内容を見て、おそらくティーダと兄妹の関係にあるであろうと判断し今検索しているのだが、普段使い慣れていないエルクには大変な重労働であった。 というのも、複数の次元世界の情報の集積地であるミッドチルダの電子の海は途方もなく広大であり、まるで砂漠に落ちた針を探すような徒労感ばかり募ってゆくからだ。 こういった類のものは専門の情報屋に頼るのが一番であるが、荒事専門であったエルクにそんな知り合いは殆どいない。 (シュウならこういうのに詳しいんだが、今はもう一つ依頼があるからなぁ………) どうしたものかと悩ませていると、不意に部屋のドアの開く音がした。 「あの………、おはようございます」 「キュクルー」 現れたのはエルクの受けているそのもう一つの依頼の依頼主である桃色の髪の少女と銀の幼竜。 依頼内容は彼女達の保護である。 「ああ、おはよう。えっと………キャロだったっけ? 起きてすぐに悪いんだが詳しい話を聞かせてくれないか?」 昨夜空港で軽く話を聞いた際にエルクが知った事は、彼女達の名前と管理局に無理やり連れ去られたという事。 この時点で先程の黒服達の話を思い出したエルクは、彼女の依頼を受けてとりあえず自宅に保護したわけだが、事の詳細を聞く前に気が抜けたのか彼女らは寝入ってしまったのだった。 「詳しい話ですか? 何を言えばいいんでしょう?」 「どうしてさらわれたのか、その経緯を教えてくれないか?」 「経緯、ですか………」 エルクの言葉を受けると、少し顔を俯かせながらキャロはポツリポツリと言葉を紡いでいった。 まるで思考を過去へと遡らせるように、世界が変わった、そのときの事を。 ◆ 第6管理世界、その一地域であるアルザス、ここでは古くから竜が神として祭られてきた地だ。 その信仰の恩恵なのか力があるから信仰していたのかは定かではないが、この地では竜を呼び出し使役する「竜使役」という力を持つ者が少なからず存在している。 少数民族「ル・ルシエ」、その中に生まれたキャロもまた、特殊な力が使えるという事を除いては他と全く変わらない普通の子供であった。 ただし、その力は自身が持て余すほどに強大で、あまりにも暴力的であった。 他とは一線を画す力を周囲の人間は、黒き竜の力、災いを呼ぶ力として恐れ拒絶した。 伝統や慣習に縛られ、柔軟な発想のできない彼らには、キャロを受け入れるだけの心のゆとりなど存在しなかったのである。 しかし、唯一祖父だけは神に近い巫女たる力だと庇ってくれていた。 そのおかげもありキャロは祖父ヨーゼフの庇護の下、他者の思惑に触れることなく健やかに育っていった。 だが永遠のものなどなく、祖父により守られてきた平穏はやがて、ある日突然終わりを告げる。 その日はいつに無い快晴であり、吹き付ける涼やかな風に、キャロは今日もきっといつもと同じ穏やかな一日が過ごせると思っていた。 肩には自分で孵した竜フリードリヒを乗せ、祖父の洗濯の手伝いをしていた時、不意に空が陰ってきた。 不思議に思い見上げた空、そこには天を覆うようにして浮かぶ鋭利な形状をした巨大な無機物。 キャロは今までこのような存在を見たことは無かったが、何か良くないものが来たような気がしてならなかった。 「キャロ、中に入ろう、何か嫌な予感がする」 祖父もキャロと同じ気持ちだったのだろうか、キャロに呼びかけると隠れるように家の中へと入っていった。 そして、それからしばらくしてのことである。 「お邪魔するよ」 声のした方を向くと、そこに居たのは入り口に立つ長老と、見慣れぬ幾人かの黒服の男達。 「長老、いったいどうしたのじゃ?」 「………この娘です」 祖父の問い掛けには答えず、長老は黒服達をキャロの方へと促した。 男達は無言で家に入ってくるとキャロの周りに機材を並べ始める。 「なんじゃ、お前達は、何を………?」 詰め寄ろうとする祖父を長老は手で制した。 「二人だ。この数が何を意味するか分かるか?」 「何の話を?」 「ヨーゼフよ、彼ら異郷の者達は竜使役の力を求めている。もう二人連れて行かれた、これ以上長老として我が民の犠牲は出せん」 「長老、まさか………」 「一番力の強いキャロを差し出せば、もう我らに構うことも無いだろう」 「まさかそんな理由でキャロを売ったのか? あれだけ虐げておきながら犠牲になれと!?」 瞬く間に次々と積み上げられていく機材に、やがてキャロの姿が見えないほどになった。 「おおー! こ、これはすごい。ここを見てください。この少女の能力は未開発ながら、こんなに高い数値を示しています。全く素晴らしい………、使えますよこいつは」 「待て、この子に何をするつもりだ!?」 「じじい、邪魔するな!」 祖父は長老の制止を振り切り歩み寄るが、それは黒服に突き飛ばされ叶わなかった。 「おじいちゃん!」 キャロは悲痛な声を上げ近寄ろうとするも、黒服に抑えられて動けない。 黒服の一人は祖父に近寄ると、上から見下すように冷酷に告げた。 「何をするかだと? ふん、貴様には分らないだろうが言ってやろう。こいつは管理局の兵士として新しき人類となるのだ。このガキも恒久の平和の礎となれば本望だろうよ」 「おじいちゃん! おじいちゃん!」 「グルルルル!」 キャロはなおも祖父に駆け寄ろうとし、そんな彼女の不安な心を反映してかフリードは黒服の一人に飛び掛る。 しかし………、 「勝手に動くな」 黒服がつぶやくと同時、突然現れた光の輪のようなものに共に拘束されると、一切の身動きが取れなくなった。 そしてそのまま追い立てられるように、キャロ達は家の外に連れ出される。 非難の声を上げようとした時、キャロはふと横に居並ぶ人達に気付きそちらを見た、見てしまった。 道の脇に佇みじっとこちらを見てる大人たち、彼らのキャロを見る目は連れ去られる事に対する同情でも哀れみでもなく、――安堵である。 やっと余所者が消えてくれる、そんな様子で皆止めようともせず、連れ去られようとするキャロをただ眺めていた。 まるで他人事、連れ去られようとするキャロには何の関心も払いはしない。 その光景を見たくなくてキャロは目を閉じた。 だが、代わりに耳に入ってくる大人たちの囁きは、自分の想像を確信させるものでしかない。 このときになってようやくキャロは自分が嫌われた存在であり、部族の一員として認められていなかったのだと判った。 そしてそのまま、深い悲しみの中で住み慣れた村から連れ出されたのだった。 ◆ 「そうやって連れ出された後、いろんな研究所に移されて何度も検査を受けました。そして昨日、また別の施設に移されるために次元を超える船に乗せられて、空港に着いたら急に建物が揺れて………」 「その隙に逃げ出して俺と出会ったってわけか」 「はい。………村の外で優しくされたの初めてだったから、すごくうれしかったです」 痛々しい表情のキャロを見て、エルクは何とかしてやりたいと思う。 「じいさんの所へ帰りたいか?」 だが、その言葉にキャロはさらに表情を曇らせてしまった。 「………いえ。おじいちゃんに迷惑を掛けてしまいそうですから………」 「そうか………」 強大な力を持つというだけでキャロを忌避していた村である、その排斥は当然祖父にも向かっていただろう。 戻れば必ず迫害される、それ以前にそもそも村に再び受け入れるかも疑わしい。 それに逃げたとなれば、元の村に当然さらった連中の手は伸びる。 強引にさらうような奴等だ、庇えば何をしてもおかしくはない。 加えて、別世界の移動には必ず管理局の厳しい目が入るのが通例だ。 にもかかわらず奴等が検査を素通りしたという事は、管理局の名を騙る犯罪組織などではなく、管理局の裏の顔であると考えられる。 管理局に関する黒い噂は今まで幾つか聞いたことがあるが、所詮噂の粋を出ないものに過ぎないと思っていた。 しかしこうして本人から聞くと、それらの噂も事実ではないかと勘繰ってしまう。 表向きの正義と大義を盾にした、この非人道的な事がどれほど管理局の深くに組み込まれているかは判らない。 もちろん理念ある局員が殆どだとは思うが、やはり管理局との接触は出来る限り避けたい。 そのため管理局に頼み込むという、まっとうな方法では別次元には移動できなくなった。 となるとキャロを元の世界に帰す選択肢が選び難い今、これから彼女を安全に保護する方法はミッドチルダ内、それも管理局の影響の薄いところに行くしかないだろう。 だが、そういった場所は大抵治安が悪い廃棄都市か、そもそも住めないような極地である。 当然そんな所でキャロのような少女が暮らしていく事は極めて難しい。 「だったらキャロが安心して暮らすには、ギルドが幅を利かせている所に行くのがいいな」 「そんな所あるんですか?」 「ああ、俺の知り合いが居るインディゴスって所でな、少なくとも管理局にまた捕まる事はないと思うぜ」 エルクが知る限りで条件を満たす場所は、知人の住む町しかなかった。 そこも特別治安の良い所ではなかったが、ギルドが取り締まっている分いくらか安全である。 おまけに情報を得るのにも都合が良い、問題を一挙に解決できる方法だ。 「そんな所があるなら行ってみたいです」 「そうと決まればさっさと行こうぜ、早ければ早いほど追手は来難いだろうし」 そこで話を打ち切ると二人と一匹は支度を始める。 ただ目的地へと向かうだけ、簡単な旅となるはずだ。 ◆ 夜とは対照的に昼の大通りは活気に溢れている。 その通りの発端、行きかう人波の中心、それがレールウェイの駅である。 そこには凄まじい人だかりが出来ており、その中にはエルク達の姿もあった。 「凄い人数ですね。お祭りでもあるんですか?」 「休日ってのもあるが、昨日空港が焼けたせいだな」 エルクは切符を注文しつつキャロの質問に答える。 休日を利用して遊びに来ていた者は意外と多かったらしく、人の群れの中には旅行鞄を抱えた者が多数見られた。 「そういえばエルクさんの荷物はどこに行ったんですか? 色々用意してたみたいですけど」 エルクは服の上から暑苦しそうな外套を纏っているだけで、先刻まとめていた手荷物の類は見当たらなかった。 「服にいくつか収納スペースがあるんでそこに入れてるんだ」 動きやすいしな、と付け加えてエルクは改めて人波を見つめる。 異常な人数に、大変な時期に重なったものだと苦笑すると、キャロが迷わぬように注意しつつ駅へと進んでいった。 「………なんですか………コレ」 「キュゥ………」 エルク達が今居る駅のホーム、ソレは彼らの目の前に確固として鎮座していた。 大型輸送リニア『グラウノルン』。 古代の巨大列車と同じ名を冠すこのリニアは、その名に恥じぬ巨体に威厳を纏い、まるで見るもの全てを威圧しているようであった。 路線に対して不釣合いのサイズではあるが、そんな見た目の鈍重さとは裏腹に、最新の魔法技術とAI制御により、そこらのレールウェイ等より遥かに速い。 「こんな馬鹿でかいリニアは他に無いだろうから、驚くのもまあ無理ないな。とりあえず中に入っちまおうぜ」 おっかなびっくりなキャロの手を引きエルクは車内へと進む。 内部は当然のごとく広く、通路は二人並んでもまだ人とすれ違えるほどであり、両脇に並んだ個室と壁に施された質素な装飾は、照明と相成って柔らかで落ち着いた印象を受けた。 そんなホテルの様な車両の中ほど、そこにエルク達の座席があった。 部屋の前後には大きくゆったりとしたソファーが備え付けられており、中央に置かれたテーブルには鮮やかな装飾が成されている。 高級な席であることは一目で判るほどに明らかだった。 「あの………、エルクさん」 「なんだ? 腹でも減ったか?」 「いえ、そうじゃなくて………、まあ、確かにお腹は空きましたけど」 「じゃあなんか頼むか」 車内通信で食事の注文を始めてしまうエルクに対し、キャロは急いで訂正する。 「そうじゃなくて、こんな高そうな所でいいんですか?」 「ああ、その事か。今日は人が多かっただろ、そのせいでこういう席しか空いてなかったんだ。くつろげなかったらゴメンな」 「い、いえ! そんなことないですよ」 キャロが急いで否定するとほぼ同時、大きな音でベルが鳴り響く。 出発の合図だ。 ◆ 坦々と流れてゆく都市区画のビル群を横目に、エルクは先程運ばれてきた料理に手をつける。 だが正面に座るキャロは、何かを考え込む様にじっと皿を見つめていた。 横でフリードが物欲しそうにして肉料理を眺めているのだが、それも全く目に入っていないようである。 やがておずおずと顔を上げると、エルクの方を申し訳なさそうな顔で見上げた。 「どうして………ここまで良くしてくれるんですか? わたしは何のお返しも出来ないのに………」 「もしかして、さっきからずっと黙ってたのはその事を考えてたからか?」 エルクが手を止めてキャロの方を見ると、キャロはその通りだと言わんばかりにコクコクと頷いていた。 「んー、なんていうか俺も似たような境遇だったからかな」 「似たような境遇?」 「俺も六年前にシュウ―――これから行く所にいる人なんだが、そいつに拾われたんだ」 「エルクさんが………ですか」 「ああ。傷だらけで、昔の記憶全部無くしてて、シュウに出会ってなかったらのたれ死んでただろうな。だからもし自分と同じように行き場を失くした奴が居たら助けてやろうと思ってたんだ」 「そうですか………」 キャロは少し気兼ねしたようにしてエルクを見る。 「記憶無いんですか?」 「まあ、無くても生活に困らないからな。とりあえず冷めないうちに食事を終わらせようぜ!」 その場の気まずさを払拭すべく努めて明るく言うとエルクは食事を再開し、キャロもそれに習いようやく手をつける。 始終おとなしかったフリードはいつの間にか一皿勝手に平らげており、コロコロした玉のようになって満足そうに横になっていた。 しばらく黙々と食べ進め一段落したとき、思い出したかのようにキャロはエルクを見上げた。 「聞いてなかったんですけど、シュウさんって人もハンターなんですか?」 「ん? そうだぜ、俺にハンターの技術を教えてくれた人だ」 「ハンターってどういう仕事なんですか?」 「色々あるが俺がするのは大体荒事だな。指名手配犯の捕獲や依頼人の護衛、あとは最近急に増えてきた危険なモンスターの対処ってのもある」 エルクの答えにキャロは少し不思議そうな顔をする。 「モンスターって何ですか? 動物とは違うんですか?」 「モンスターってのは他時空からの外来生物、それも人間を襲う奴のことだ。魔法を使ってくる奴もいるから魔導師である俺達が処理するしかないんだ」 「処理って事は、やっぱり殺しちゃうんですか?」 少し悲しい顔をしてキャロが見つめる先には、幸せそうに寝転がるフリードの姿があった。 「………モンスターは次元移動なんて出来ないから、ミッドに居るのはペットや実験体として人間に連れてこられた奴らばかりさ。本来は被害者だが人間に危害を加える以上駆除するしかない」 すっかり暗くなった雰囲気にエルクは、話題を間違えたと今更ながらに思い顔をしかめた。 キャロは閉鎖された村に住んでいたというだけあり、何にでも関心を示し質問してくる。 話題に困らないのは良いが、どう答えてもキャロが喜んでいるようには思えなかった。 そもそもエルクはまだ一度もキャロが笑うのを見たことが無い。 感情の豊かなはずの年頃にもかかわらず、キャロの表情は老成しているかのように変化に乏しい。 ここまで感情を押し込めてしまうほどにキャロを傷つけてきた周囲への怒りで、エルクはなんとかしたいという思考は全て空回りしている様に感じるのだ。 楽しそうな話題を探してふと窓の外を見ると、車外の風景は画一的だった都市から無秩序に繁茂した緑の山々へと変わっていた。 「そうだ、ミッドの風景でも見てみないか? このリニアには確か展望台があったと思うし」 キャロがコクリと頷きフリードを抱きあげるのを見て、エルクも立ち上がり先導するように通路へと出た。 少しはこの雰囲気が払拭される事を望んで。 ◆ エルク達がしばらく歩いて行き着いた先、行き止まりとなる扉には貨物室と表示されていた。 「道を間違えたか?」 「反対側じゃないんですか?」 ろくに案内も見ず進んだせいである。 引き返そうと思ったとき、エルクは何か違和感の様なものを覚えた。 「妙だな」 「どうしたんですか?」 「防犯用レーザーセンサーが切られてる。これじゃ盗んでくれって言ってる様なもんだ」 いぶかしみ扉に軽く触れると僅かに開いた。 それと同時に何かを漁る音、くぐもったうめき声が漏れ聞こえてくる。 明らかに変だという思いから、エルクは隙間から内部を覗き込んだ。 荷物の積まれた棚の並んだ先、そこに数人の人影が見える。 中央には警備員と思われる数人が縛られて転がされており、その周りで四人ほどの男達が荷物を漁っていた。 (どう見ても強盗だよな………) ならば止めるべきとデバイスに手を伸ばしたが、急に強盗らしき男達の一人がこちらに向かって歩いてきたので、急いでキャロを連れて脇に隠れることにした。 入れ替わるようにのこのこと扉から出てきた男、エルクの中では既に強盗確定だが、その理由ぐらいは知っておくべきだと思う。 なぜなら、このリニアはかなり強力なセキュリティーを搭載している。 それを打ち破るにはそれなりの人員と機材が必要だった。 ただの物取りが狙うには割りに合わないのである。 エルクは極力気配と足音を消し、素早く滑るように男の面前へと飛び出す。 相手は驚いたような顔をしたが、もちろん声を出させるような隙など与えず、強烈なボディーブローを叩き込んだ。 抵抗するだけの気力を失った相手を暗がりに連れ込むと、後は極めて簡単である。 少しデバイスをちらつかせるだけで易々と口を割り、聞いてもいないのに全てを話す男。 そして………。 エルク達の今回の旅は簡単な物から一転して、厄介な事へと変わってしまった。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/46.html
高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ リインフォースⅡ シグナム ヴィータ シャマル ザフィーラ ギンガ・ナカジマ ヴァイス・グランセニック シャッハ・ヌエラ フリードリヒ ヴォルテール ルーテシア・アルピーノ アギト チンク オットー ノーヴェ ウェンディ 聖王ヴィヴィオ 高町なのは プロテクションEX(漫画版Episode-1) アクセルシューター(漫画版Episode-1) スターダストフォール(漫画版Episode-1) レストリクトロック(第1話) ディバインバスター・エクステンション(第1話) アクティブガード(第1話) ホールディングネット(第1話) ラウンドシールド(第4話) バリアバースト(第4話) アクセルフィン(第5話) ショートバスター(第5話) ディバインシューター(第8話) フローター(第8話) クロスファイアシュート(第8話) フープバインド(第8話) オーバルプロテクション(第11話) エクセリオンバスター(第12話) ストレイトバスター(第20話) A.C.Sドライバー(第22話) シーリングロック(第23話) チェーンバインド(第25話) クリスタルケージ(第25話) ワイドエリアサーチ(第25話) スターライトブレイカーex-fb(第25話) セイクリッドクラスター(聖王ヴィヴィオ使用魔法のオリジナル) インパクトキャノン(聖王ヴィヴィオ使用魔法のオリジナル) フェイト・T・ハラオウン プラズマランサー(漫画版Episod-1) サンダーフォール(漫画版Episod-1) ディフェンサープラス(第2話) プラズマスマッシャー(第2話) ソニックムーブ(第2話) ハーケンセイバー(第5話) ブリッツアクション(第6話) プラズマバレット(第12話) トライデントスマッシャー(第12話) ジェットザンバー(第21話) サンダーアーム(第22話) ライオットブレード(第24話) ライオットザンバー・スティンガー(第24話) ライオットザンバー・カラミティ(第24話) プラズマアーム(聖王ヴィヴィオ使用魔法のオリジナル) 八神はやて アーテム・デス・アイセス(第2話) フレースヴェルグ(第11話) デアボリックエミッション(第12話) スバル・ナカジマ リボルバーシュート(第1話) ウイングロード(第1話) バリアブレイク(第1話) ディバインバスター(第1話) ナックルダスター(第3話) アブソーブグリップ(第5話) プロテクション(第6話) シールドブレイク(第8話) ディバインバスター・ゼロレンジ(第11話) リボルバーキャノン(第15話) リアクティブパージ(第17話) キャリバーショット(第23話) ディバインバスターA.C.S(第23話) 振動拳(第26話) ティアナ・ランスター シュートバレット(第1話) オプティックハイド(第1話) クロスファイアシュート(第1話) フェイクシルエット(第1話) ヴァリアブルシュート(第3話) ヴァリアブルバレット(第5話) アンカーショット(第7話) シュートバレットF(第7話) ダガーブレード(第8話) ファントムブレイザー(第8話) シューティングシルエット(第23話) エリオ・モンディアル ソニックムーブ(第2話) スピーアシュナイデン(第3話) ルフトメッサー(第3話) スピーアアングリフ(第4話) スタールメッサー(第5話) メッサー・アングリフ(第5話) サンダーレイジ(第17話) 紫電一閃(第24話) キャロ・ル・ルシエ ブーストアップ『バレットパワー』(第3話) アルケミックチェーン(第3話) ブーストアップ『アクセラレイション』(第4話) 竜魂召喚(第5話) エンチャントアップ『フィールドインベイド』(第5話) ブーストアップ『ストライクパワー』(第5話) プロテクション(第12話) ブーストアップ『ディフェンスゲイン』(第14.5話) 竜騎召喚(第17話) ホイールプロテクション(第21話) シューティングレイ(第21話) ウイングシューター(第22話) ブーステッドプロテクション(第24話) リインフォースⅡ フリーレンフェッセルン(漫画版Episod-1) ヴァイヒ・スツーツ(第1話) フリジットダガー(第12話) シグナム シュランゲバイセン・アングリフ(漫画版Episod-2) 紫電一閃(第7話) パンツァーシルト(第7話) 飛竜一閃(第22話) 火龍一閃(第26話) ヴィータ シュワルベフリーゲン(第2話) ラケーテンハンマー(第9話) ギガントハンマー(第12話) コメートフリーゲン(第21話) ツェアシュテールングスハンマー(第25話) シャマル 風の護盾(第17話) 戒めの鎖(第23話) ザフィーラ 鋼の軛(第2話) ギンガ・ナカジマ シェルバリア(第2話) トライシールド(第11話) ナックルバンカー(第12話) ウイングロード(第12話) ストームトゥース(第15話) ディフェンサー(第15話) リボルバーギムレット(第22話) ヴァイス・グランセニック スナイプショット(第24話) ヴァリアブルバレット(第26話) シャッハ・ヌエラ 烈風一刃(第21話) 旋迅疾駆(第24話) フリードリヒ ブラストフレア(第3話) ブラストレイ(第5話) ヴォルテール ギオ・エルガ(第17話) ルーテシア・アルピーノ シュテーレゲネゲン(第7話) ブンダーヴィヒト(第7話) トーデス・ドルヒ(第12話) アギト スターレンゲホイル(第11話) ブレネン・クリューガー(第12話) 烈火刃(第17話) 轟炎(第17話) チンク ハードシェル(第17話) オーバーデトネイション(第17話) オットー プリズナーボクス(第21話) ノーヴェ エアライナー(第17話) ガンシューター(第17話) ウェンディ エリアルショット(第17話) フローターマイン(第17話) エリアルキャノン(第21話) 聖王ヴィヴィオ セイクリッドクラスター(第25話) インパクトキャノン(第25話) プラズマスマッシャー(第25話) プラズマアーム(第25話)
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/161.html
魔法戦記リリカルなのはForce 登場人物1巻 魔法戦記リリカルなのはForce 登場人物2巻 魔法戦記リリカルなのはForce 登場人物3巻 魔法戦記リリカルなのはForce 登場人物4巻
https://w.atwiki.jp/nicoparo/pages/95.html
今、崩壊したラピュタのとある場所ではピコ麻呂たちと冥王なのはの激しい戦いが繰り広げていた。 周りの景色は冥王なのはが放つ凄まじい魔力で妖しく景色が歪んでいる。 戦況は冥王なのはが優勢だ。立っている面々は言葉・ハルヒ・ミクといった面々だけであった。 冥王なのはがレイジングハートを高く振り上げる 「ファーーイ!!」 圧倒的魔力がレイジングハートからほとばしる。その魔力で顔をゆがめる言葉。 「.rar!!」 魔力の中からすぅっと手がのびてきて言葉の襟元をしっかりと掴んだ。言葉は完全に不意をつかれてしまったのだ。 それが冥王なのはの手だと気付くにも、非常に危険な状況だと理解するのにも、数秒もかからなかった。 速く手をほどこうとしたが、しっかり握られているし、戦いでついた傷のせいで上手く力が入らない。 おまけに冥王なのはから発する凄まじい魔力で体が思い通りに動かない。 「シークレットショット2・・・」 速くこの手から逃れなければ!しかし体が言うことを聞かない!! 冥王なのははレイジング・ハートを言葉にむける。 そして、その時は来てしまう。 「ディバイン・バスター!!」 高密度の魔力の光線がレイジング・ハートから発射され、それは言葉に直撃する。 無論、無事なはずが無く、言葉は大きく吹き飛んで、倒れてしまう。 「(うそ・・・でしょ・・・?)」 そばにいたハルヒはショックを受け、放心状態になっていた。 その時、やや離れたところから長ネギを構え、不意を付くかの如く、初音ミクが突撃してきた。 「なのは師匠!!お金返してぇ~やぁ!!」 本人なりに気合いを入れたようだが、あまり意味が・・・というか意味不明である。 当然、冥王なのははミクとは一度もあってない。だから彼女も「えっ!?」と驚いてしまった。 しかし、油断していたわけではない。ミクの長ネギによる突き技をかるく受け流した。 攻撃を受け流されたミクは自分のもちうる最強の必殺技を冥王なのはにかました。 「ガトチュエロスターイル!!」 上半身のバネのみで繰り出した強力な突き技は冥王なのはに直撃したかのように見えた。だが・・・ 「油断・・・?これは余裕と言うのよ・・・」 僅かに横にずれ、冥王なのははミクのガトチュをかわした。 そして、戦いのさなかでできた傷口に指を突っ込んだ。 「少し・・・頭冷やそうか・・・」 冥王なのはは冷たく言い放つとミクに魔力の塊をぶつけ、弾き飛ばしてしまった。 後に残ったのは、ハルヒだけだった。 ハルヒは覚悟をきめ、冥王なのはに挑んだ。 「フタエノキワミ、アッー!!」 だが、その拳は冥王なのはには届かず、冥王なのはは逆にハルヒを思い切り殴りつけた。 ハルヒも大きく飛ばされてしまう。 「(畜生・・・畜生・・・!! 戦うのが・・・こんなに難しいだなんて・・・!!)」 「フフフフフフ・・・・」 冥王なのはが妖しく微笑む。もうおしまいなのか? 否、まだ一人いた。親撃退機能を搭載したキーボードを両手に持つ戦士が。 「いや、ホモレモン・・・ 勝負のお芋・・・ ママ早い!!」 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/160.html
「ボイス!どういうことだよ、これは!?」 新メンバーの面接ということで誰が来るのかと思いきや、現れたのは小さな子供。真墨でなくとも、驚くのは当然だろう。 「ブラック君。そう怒らないでほしい。彼女達はサージェス・ヨーロッパからの推薦なんだよ」 「サージェス・ヨーロッパの紹介!?あのガキが!?」 指を指された少女はムスッとした顔で、真墨を睨んでいる。反対に隣の女性は全く表情を変えず、涼しい顔だ。 「まあまあ、いいじゃないですか。僕としてはメンバーの女性比率が高いのは大歓迎」 「菜月も可愛い子が一緒なのは嬉しいよ」 「お前らそういう問題かよ!」 蒼太と菜月が真墨の両肩を叩く。 最初は二人とも驚いていた癖に、いつの間にか不満思っているのは真墨だけになっていた。この二人は比較的こういったことに無頓着なタイプである。いつもつっこみ役だ。 (やれやれ……。さくら姐さんがいたなら俺と同じことを言っただろうなぁ……) 真墨は宇宙に旅立ったボウケンピンク――西堀さくらを思い出した。 「ともかく、能力に関しては問題ない。そこら辺は実際にミッションで確かめてもらうしかないね」 ミスター・ボイスがこう言うなら真墨もあまりしつこくは言えないのだ。さて、あの二人がどれほどのものか――真墨は一抹の不安を隠せなかった。 ――命懸けの冒険に今日も旅立つ者がいる。秘かに眠る危険な秘宝を守り抜くために、あらゆる困難を乗り越え進む冒険者達―― 魔法少女リリカルなのはVS轟轟戦隊ボウケンジャー ExtraTask02 隠されし術 周囲に張られてた結界は消え、今は気配も感じない。ユーノと映士は、カース達と戦った場所でお互いの情報を簡単に交換した。 アシュはユーノの知るどの世界にも存在しない。だが、不思議と各世界に伝わる伝説や伝承に登場する魔人や鬼の類と彼等のイメージは重なった。 ユーノは砕かれたカースの欠片に目をやる。欠片を取り、目を閉じてしばらく意識を集中させ、微かな魔力を感じ取る。 「何やってんだ、ユーノ?」 後ろから映士がそれを覗き込んだ。知らない彼からすれば不自然に見えるのだろう。 「高岡さん。これは石に魔力を注ぎ込んで形を形成した後、仮初めの命を与えたものですね。」 「ああ。古代ゴードム文明の大神官、ガジャって野郎が使ってたもんだ。」 「はい、この破片からは魔力を感じます。でも、高岡さんの話だと、ガジャは海の底……」 ユーノは口に手を当て考え込む。これを形成した魔法がこの世界のものなのか、それとも他のものなのか――それはわからない。 この世界には魔法は存在しないとなっているが、映士から聞いたアシュの術やガジャの術、そして高岡の術。管理外のこの世界で、かつて魔法が存在した可能性は十分にある。 それも管理局の全く知らない魔法体系―― 「おい……おい!」 「うわっ」 突然、眼鏡を弾かれ仰け反るユーノ。一瞬視界が歪む。 眼鏡を直すと目の前には映士の顔があった。どうやら声を掛けられていたのに気付かなかったらしい。 「ったく、さっきからずっと呼んでるのに気付かねぇのか?」 「すいません……それで高岡さん、アシュについては大体わかりました。それじゃあ肝心の百鬼界の封印を解く方法はあるんでしょうか?」 今度は映士が考え込んでしまった。教えていいものか、といった様子にも見える。 「俺様も全部を全部受け継いでる訳じゃあねぇしな……。だが、アシュの封印に使った神器を奉納してる寺なら知ってるぜ」 「それじゃあすぐに行きましょう。あまり時間はないかもしれません」 そう言って駆け出そうとするユーノだったが、襟首を映士に掴まれた。 「まあ待てよ。このことはサージェスに報告しとかねぇとな。アシュが関わっているならなおさらだ」 「ですが――」 あまり時間がないというのは、あくまで憶測の範疇を出てはいない。 それに、ユーノが急ぎたがるのは――正直なところ、憧れが大きかったりする。 発掘者の一族として多くの遺跡を発掘し、古代の遺産に触れてきた。ジュエルシード等、いいことばかりではなかったが、それでも発掘が好きだと今は思う。 無限書庫の司書になってからは数多の知識に触れ、想像と思索を繰り返してきた。 未知の術や世界は、彼の知的好奇心を刺激するには十分すぎるものだった。それを目の前にしては、走り出そうとするのも無理はない。 「わかりました。それじゃあそのお寺の場所を教えてください。僕は先に行ってますから、高岡さんは後から追いかけてきてくれれば」 ユーノの言葉に映士は頷き、寺の地図を渡す。 「爺さんと孫の二人だけだ。俺様の名前を言えば多分わかるだろ」 「ありがとうございます。それじゃあ――」 と、数歩走り出したところで足を止め、振り向く。 「あ、それと……今回の件ですが、まだ確実な段階でないことや、情報が漏れることを考え、管理局から魔導士の存在は極力明かさないよう言われています。ですからボウケンジャーの皆さんにも、今はまだ秘密にしておいてください」 それだけ捲くし立てて今度こそ走り出した。映士が後ろから呆れ半分の笑みを浮かべていることにも気付かなかった。 その日、ボウケンジャーのサロンの空気は最悪と言ってもよかった。 主な理由は新人のシグナムとヴィータにある。 紹介の後、シグナムは一言も喋らずサロンに座っている。蒼太が何やらモーションをかけているが、ほぼ無反応だ。 ヴィータの方はもっと問題だ。菜月も彼女と打ち解けようと頑張ってはいるが、当たり散らしては不機嫌そうにしている。 このままではまずいか――真墨はそう思い、シグナムとヴィータに話し掛けた。 「なあ、なんでお前らはボウケンジャーに入ったんだ?」 彼なりに親睦を深めようとの質問だったのだが―― 「それが命令だからだ」 と、シグナム。 「はやての頼みじゃなきゃこんなとこ……」 と、ヴィータ。 彼女らの答えを聞いた真墨は机を叩いて立ち上がった。サロン内にその音が響き、険悪な空気が漂う。 睨み付ける真墨の視線を二人は無言のまま真っ向から受け止め、見えない火花を散らした。 そのまま固まる時間。沈黙は菜月や蒼太にも広がる。 数十秒ほどなのに、それは随分長く感じられた。 「チッ!」 先に動いたのは真墨だった。軽く舌打ちしてサロンを立ち去る。 蒼太と菜月も顔を見合わせ、後を追いサロンを出た。 「ねえ、真墨。ちょっと言われたからって気にするなんてよくないよ?」 廊下を歩く真墨に菜月が駆け寄る。それでも歩みを止めないと、真墨の前に立ち塞がった。 「そうそう蒼太。彼女達もまだ慣れてないんだと思うけど?」 菜月に遅れて蒼太もゆっくりと近づいてくる。 「そんなことはわかってるんだよ。ただ……俺達はみんな理由はそれぞれ別でも、自分の意思でボウケンジャーに入隊したんだ。明石も言ってただろ?俺達は皆なにかを求めて冒険しに集まった、って」 それ故に、嫌々ここに来たような口振りの彼女らについ腹が立ってしまった。 歩くうちにいつの間にか外に出ていた。真墨は腕を頭の後ろで組み、空を仰ぐ。太陽が眩しくて目を細める。 「やっぱり明石のようには行かねえな――」 前ボウケンレッドの明石暁から受け継いだチーフの位置。これまでは知ったメンバー同士で問題なくミッションも遂行できたが、新人の相手はこれが初めてである。 最初からこれで大丈夫だろうかと不安にもなるというもの。 「でもさぁ、ヴィータちゃん達にここに来るように言った人って誰なんだろうね?」 「はやて、って言ってたね。ボウケンジャーの仕事を知ってて、サージェスに顔が利く人なのかな?」 それは真墨も気になった。だが、聞いたところで教えてくれるだろうか? 彼女達にはなにやら秘密がある――真墨の勘がそう告げていた。 シグナムとヴィータは二人、サロンに取り残されていた。 「なぁ、シグナム……なんであたし達二人なんだろうなぁ?」 だが、今のシグナムにその疑問に対しての答えは持っていなかった。なにしろ彼女自身もそれが気になっているのだから。 ――時空管理局、次元世界の管理をする機関に彼女達は所属している。 管理局はロストロギアと呼ばれる危険な古代遺産の確保に力を注いでおり、彼女達がここにいるのも、その調査のためである。 だが、本来二人はこういった任務をすることはほとんどない。それにそれぞれが別の部署に仕事を持っているのだが、何故かロストロギアの潜入調査に選ばれてしまった。 "彼女"から任務のことを聞いた時は正直、驚きを隠せなかった。なにせ現地の組織に短期間とはいえ素性を隠して所属しろというのだから―― 「シグナムとヴィータに行ってもらいたいねん。うちが二人を推薦しといたから」 それは八神家のリビングでのことだった。 八神はやて――ロストロギア『闇の書』もとい『夜天の魔導書』の主であり、同様に自分とヴィータの主でもある少女。かつては足の麻痺に苦しんでいたが、今ではそんなことは感じさせず中学校にも通っている。 「何故、我々なのですか?」 確かそう聞いたはずだ。確かに自分達は生身での運動能力にも優れている方だし、生半可なことではやられはしないだろう。 だが、それでも彼女があちこちに根回ししてまで、自分とヴィータを派遣する理由にはならない。その疑問はヴィータも同じだった。 「そうだよ。なんであたし達なんだ?そもそも管理局の仕事はどうするんだよ」 「それについては心配せんでええ。上手く埋め合わせしてくれるはずや」 彼女はニコニコしながらお茶を啜っている。この笑顔で頼まれると正直断りにくい。 「わかりました。ですが……任務を終えた際はその理由を聞かせてもらえますか?」 彼女は笑みを絶やさず、しかし、その眼はまっすぐにこちらの眼を見ている。長い付き合いで自分もヴィータもわかっている。それは誤魔化しなどでは決してなく、彼女は自分達を信頼して言っているのだ、と。 「行けば解るはずや。二人ならきっと――」 次の日、ボウケンジャーはミスター・ボイスによってサロンに集められた。シグナムとヴィータも昨夜は他のメンバーと同様に、与えられたサージェスの個室で休んだらしい。 「それで、どうしたんだボイス」 真墨の問いにモニターに写ったCGが答える。 「うん。先日、サージェスヨーロッパのプレシャスバンクから、『バジリスク』の化石が盗まれた。石化し、複数の部位に分かれたものだ。それが日本に渡った可能性がある」 「バジリスクって……何だ?」 ヴィータが首を傾げた。真墨が昨日確認した限りでは、彼女達は身体能力はずば抜けている。もしかするとボウケンジャーのメンバー以上かもしれない。だが反面、サバイバル能力や地理、宝や伝説についての知識は著しく欠如していた。 「バジリスクっていうのは、伝説上の魔物でね。八本足のトカゲで猛毒を持ち、睨んだ生き物を石に変える。色々伝説はあるけど、大体こんな感じ」 蒼太がパソコンを開いてヴィータに説明した。 「へぇ~、そんな生き物がいるんだ」 ヴィータは蒼太のパソコンを見て目を輝かす。真墨には、その仕種は歳相応のものに思えた。 「バジリスクの眼球だけは、過去に日本に渡ったとされている。化石とはいえ、ものがものだ。瞳は特にハザードレベルが高い。大まかな場所は調べてあるから、君達には先に眼球を確保してもらいたいんだ」 「ものがもの――か。探すのも十分注意が必要だな。ボウケンジャー出動だ。早速現地に向かうぞ!」 「了解!」 真墨の号令に菜月と蒼太が応じる。 「ああ、ちょっと待ってください」 中年の男性がサロンに入ってきた。ボウケンジャーの装備やビークルの開発やメンテナンスを担当しているメカニックの牧野森男だった。 プレシャスの解析も行う、ボウケンジャーを支える最も重要な裏方といえる。 「ヴィータ君とシグナム君のアクセルラーです。持っていって下さい」 そう言ってアクセルラーを手渡す。 ――アクセルラー。携帯電話型のそれは、アクセルスーツの装着のためのアイテムであり、その他にも通信や各種のツールが仕込まれた、いわばボウケンジャーの証とも言える。 だが、真墨に言わせれば、それは『ボウケンジャー』の証でこそあれ、『冒険者』の証ではない。 この出動は彼女らの入隊テストも兼ねている。真墨は心の中で気を引き締め直した。 ボウケンジャーが出動し、サロンには牧野とボイスのみが残った。 彼らを見送った牧野は誰にともなく呟く。 「行きましたか……」 「牧野さん……。シグナム君とヴィータ君の身体データ……牧野さんならわかりましたね?」 ボイスから牧野に話しかけた。普段とはまるで違う、ひょうきんでもなければ事務的でもない。どこか憂いを秘めた口調。 「ええ、やはり彼女達……」 「牧野さん、それ以上は――」 ボイスが牧野の言葉を遮った。 「失礼しました」 牧野もすぐにその意図を察して軽く頭を下げる。 「何かが起ころうとしているのは確かでしょう。ダークシャドウも侵入できないプレシャスバンクから痕跡も残さず、複数の場所に分けて保存してあるバジリスクをほぼ同時刻に盗み出す――プレシャスを超える古代遺産と魔法でもなければ不可能な芸当……」 「彼女達の入隊も当然関係しているのでしょうね……」 牧野も、ボイスも、そしてボウケンジャーも。今はただ、災いの影を照らす術を模索していた―― 雄大な山々が幾つも連なる、未だ自然を多く残した山脈。霊峰と呼ばれるような山もある。 その麓からボウケンジャーの3人とヴィータ、シグナムは見上げている。 「この山のどこかにバジリスクの瞳があるのか……」 「絞り込んであるとはいえ、探すにはちょっと骨が折れるなぁ」 「でもでも、その方が冒険らしいじゃない」 ボウケンジャーの三人がそれぞれの感想を述べる中、シグナムとヴィータは無言で付き従う。 「とりあえず俺と蒼太、シグナムは東側から、菜月とヴィータは西からそれぞれ調査だ。近くまでくれば反応があるだろう。」 シグナムとヴィータは無言で頷く。昨日ほどは不機嫌でもないようだった。 菜月とヴィータはアクセルラーを片手に山中を進む。山の緑はちょうど色濃くなる時期で、むせ返るような精気を放っている。 「なあ……」 「菜月だよ、間宮菜月」 名前を思い出せなかったのを察したのか、菜月から自己紹介をした。 「菜月はなんでボウケンジャーなんてやってんだ?昔の映像や資料には入隊の時に目を通したけどさ。大変だし、何度も死にかけてるだろ?」 「う~ん、やっぱり……楽しいからかな」 「楽しい?」 「元々菜月はね……自分の過去を探すために入ったんだ――」 菜月は自らの出自をヴィータに話し出した。 10万年前の古代レムリア文明の生き残りであること―― 生れ落ちてすぐにプレシャスの力で老化を遅らせながら眠っていたこと―― 真墨に拾われトレジャーハンターをしながら過去を探していたこと―― そしてボウケンジャーに入って過去を知ったこと―― 彼女は辛い過去だっただろうに、まるでそれを感じさせない。むしろ大事そうにゆっくりと語った。 「何ていうか……大変だったんだな」 「でも今は皆と冒険するのが楽しいよ。それに思い出があったから、真墨や蒼太さんや映ちゃんが大事に思えるもん」 かつては使命しかなかった。だが、今は家族がいて仲間がいる。 ヴィータは菜月に、どこか自分と似たものを感じた。 「それに今度は、ヴィータちゃんとシグナムさんも一緒に冒険できるよ」 「な、なに言ってんだよ!」 ヴィータは赤らんだ顔を隠すために顔を背けた。 何故、彼女はこんなに素直に笑えるのだろう。――少し彼女が羨ましい。 「それにいっぱい不思議なプレシャスに会えるよ。物を大きくする小槌とか、動物の言葉が解る指輪とか、どんな姿にも変身できる反物とか」 「すげ~、本当か!?」 打出の小槌、ソロモンの指輪、虹の反物――。菜月の話す冒険譚にいつしかヴィータは引き込まれていた。 東側からは真墨と蒼太、シグナムが黙々と山上を目指していた。 「ところで何て呼べばいいかな?シグナムさん?ちゃん、って感じじゃないよね」 真墨、シグナム、蒼太の順で、真墨は二人よりやや先を歩いている。 「シグナムでいい……」 シグナムは少々うんざりしていた。さっきから蒼太が何かと話しかけてくる。それでもこちらが不機嫌そうにすると、すぐに引き下がるあたり、かなり手馴れている。 「それじゃあシグナム。昨日も真墨が聞いてたけど、ボウケンジャーにはあんまり興味が無いのかな?」 「私は主から言われてここに来ただけだ。宝探しには興味は無い」 シグナムの言葉に、前を歩く真墨が振り返った。 「おい!俺達の任務は単なる宝探しじゃない。プレシャスってのは危険な物なんだ。それを利用して世界制服や滅亡を狙う連中までいるくらいにな。 何も知らない癖に勝手なこと言うんじゃねえっ!」 激昂する真墨を、蒼太が無言で片手を出して止める。 「シグナム、確かに僕達のやってることはただの宝探しだよ。でもプレシャスに限らず、宝を探すのは大抵が危険と隣り合わせ。これでなかなか大変なんだ。」 穏やかな口調。だが、その目は笑ってはいない。 「ならば何故、何を求めてお前達は冒険をしている?」 蒼太は頭を掻いて、少し困った素振りをする。 「僕は前はスパイをやっててね。スリルはあったんだけど、楽しんでたのは僕だけだった。 幾つも国や企業を崩壊させて――僕の情報が多くの人を悲しませてるのに気付いて、それからスパイを辞めた。皆の笑顔を守って、僕自身も笑顔でいたかったから、ボウケンジャーに入ったんだ」 シグナムは 「そうか……」 としか答えられなかった。 そして己の勝手な先入観を恥じた。気楽な宝探しなどではなく、彼らにも譲れないものがあったのだ。 「まっ、何を求めてるかは、皆それぞれ違うよ。前のチーフが言ってた、"俺達は皆、自分だけの宝を探して集まった"ってね。君には無いのかい?」 「宝なら既にある。命に代えても守るべきものが――」 宝、という表現が正しいのかはわからない。だが、最も大切なものは一つしか思いつかなかった。 「私達にここにくるよう言った人――私とヴィータの主人だ」 真墨が再び振り返る。表情にはもう怒りは無い。 「大事な宝が一つじゃなきゃいけない、なんてことはないんだぜ?形のあるものでなきゃいけない、ってこともな」 「形の無い宝……?」 「お前らが何か目的があってきたのは大体察しがつく。でもな、他の宝を探すのもいいんじゃないか?」 「そんなものがあると?」 「さあな。それに関しては、俺は命令しない。自分で考えてみろ」 それだけ言うと、また歩き出した。 虫や鳥の声がする。耳を澄ますとせせらぎも聞こえてきた。 見回すと近くに沢が流れていた。見たこともない魚が泳いでいる。 振り向くと眼下には街が広がっている。 (風が気持ちいい……) この景色を見れば、きっと主はやても喜ぶだろう。いつか皆でピクニックに来るのも悪くない。 (私がこんなことを思うとはな……) 考えてみると可笑しくなり、自然と笑みがこぼれた。 菜月、ヴィータ組は徐々に山頂に近づいていた。近くからは鐘の音が聞こえる。 「おい、菜月!あれ見ろよ!」 菜月がヴィータの指す方向を見ると、少し前を三人――いや、厳密には人ではない。 「ジャリュウ一族!」 恐竜の遺伝子により生まれた恐竜人類。赤いゴツゴツした皮膚に鎧を纏っている。 だが、一体見慣れないジャリュウが混じっていた。 皮膚は赤と緑の混ざった色、顔つきも全体的に恐竜よりもトカゲに近い。眼は鈍色でくすんでいる。だが、最大の特徴は頭頂部の鶏の冠に似た襞。そして両手、両足の他に、身体の中心から生える四本の腕だろう。 「なにあれ……」 思わず菜月が呟く。それはこれまでのジャリュウの中で最も異形なフォルムだった。 「どうするんだよ、菜月。あいつらバジリスクの目玉ってのを狙ってるんじゃないのか?」 「待って、ヴィータちゃん。とりあえず後をつけよう。真墨達にも連絡して」 アクセルラーを通じて連絡した後、二人は息を殺して付かず離れずの距離を保つ。 そのまま、10分程歩いただろうか。小さな洞窟の前で彼らは立ち止まった。 洞窟の前は開けた平地のため、これ以上は近寄れない。 会話に意識を集中し、なんとか聞き取ろうとする。 「ここに……バジリスク……確かなのか……」 やはり、狙いは『バジリスクの瞳』だ。 「菜月!」 声に振り向くと、真墨達三人が追いついてきていた。 「遅いよ、真墨!」 「悪い悪い」 軽口を叩き、五人が足を踏み出す。 「待て!ジャリュウ一族!」 尾行に驚くジャリュウ一族。だが、中心の邪悪竜だけは不気味に落ち着き払っていた。 「レディ!ボウケンジャー、スタートアップ!!」 同時にアクセルラーのタービンを左腕で滑らせる。 真墨は黒、蒼太は青、菜月は黄、シグナムはピンク、ヴィータは赤の光にそれぞれ包まれ、光が消えると、アクセルスーツを身に纏ったボウケンジャーが現れる。 「迅き冒険者!ボウケンブラック!」 「高き冒険者!ボウケンブルー!」 「強き冒険者!ボウケンイエロー!」 「深き冒険者……ボウケンピンク……」 「あ、熱き冒険者、ボウケン、レッド」 シグナムとヴィータを除く三人が思い思いのポーズを決めるが、シグナムとヴィータは恥ずかしいのか随分と動きが小さい。 一帯に静寂が流れる。 「ヴィータちゃん、ダメだよ!もっとはっきり言わなきゃ!」 「こんな恥ずかしいことできるかよ!」 「シグナム。恥ずかしがってると、余計に恥ずかしいよ?」 「とはいえ、これは……」 「お前らそんな場合か!」 ブラックによって、ようやく全員が戦闘態勢を取る。やはりつっこみ役か。 「貴様らがボウケンジャーか!俺は邪悪竜『バジーク』!」 他のジャリュウとは違う、中央のジャリュウが名乗った。口からは鋭く尖った牙が見え隠れしている。 「邪悪竜だと!?」 邪悪竜――同族との殺し合いで生き残ったジャリュウにリュウオーンが力を与えたもの。 リュウオーン亡き後、新たな邪悪竜や大邪竜は確認されていなかった。少なくとも真墨の知る限りでは。 「我らジャリュウ一族は新たな力を手に入れた!少々遊んでやるとしよう!」 バジークが指を弾くと同時に、茂みからカースが現れた。数は10体、少してこずる数だ。 ブルーとイエローでカースを。シグナムとヴィータでジャリュウを。そしてバジークの前にはブラックが立ちはだかった。 「アタック!」 ブラックの号令とともに全員が動く。 ブルーとイエローはサバイブレード――ボウケンジャーの標準装備。ビームガンのサバイバスター、剣のサバイブレードの形態を切り替えることができる――を抜き放ち、背中合わせに死角を補いつつカースを攻撃する。 シグナムとヴィータは一人ずつ、ジャリュウと戦っている。武器は同じくサバイブレード。 シグナムはジャリュウの剣を的確に捌きつつ、ヴィータは小柄な身体を活かし、ジャリュウを圧倒していく。 そしてブラック――サバイバスターを構え、機会を窺う。 バジークは六本の腕に剣を握っていた。それぞれの腕が別の意思を持っているかのように蠢く。 バジークは洞窟を背にして、ブラックはバジークを中心にして左右に動く。 「サバイバスター!」 意を決してサバイバスターを連射。オレンジの光線が銃口から放たれる。 「ふんっ!」 だが、全てのビームが六本の剣に防がれてしまう。 そして、ブラックがサバイブレードに切り替えた瞬間、既にバジークはブラックの懐にまで潜り込んでいた。 「ぐぁぁぁ!!」 サバイブレードが弾かれ、残った腕の斬撃で大きく吹き飛ばされた。 アクセルスーツからは激しい火花が散り、激痛に悶える。 バジークがブラックにとどめを刺そうと近づく。その時―― 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」 戦場に悲鳴が響き渡った。 悲鳴はバジークの背後――洞窟の入り口から。そこには幼い少年が顔を青ざめ、腰を抜かしていた。 何故こんな山奥に少年が?何故洞窟から? 誰もが一瞬動きを止め、状況を認識する時間を必要とした。 最も早く回復したのはシグナム。だが、彼女の手が少年に届く前に、バジークは素早い動きで少年を締め上げ、剣を突きつける。 「動くな!!」 シグナムは急ブレーキをかけ、ブルーとイエローはカースから飛び退く。 「言わずともわかるだろうが……動けばこのガキはどうなるかなぁ……」 「くっ……!」 少年はバジークの腕の中で泣きじゃくっている。 ボウケンジャーを睨んだまま、洞窟に入ろうとするバジーク。 だが、銃声と同時にその足元に火花が散り、土煙が舞い上がる。 「どうも騒がしいと思ったら……やっぱりネガティブだったか!」 その声は高岡映士――ボウケンシルバーのものだった。その手にはサガスナイパーが握られている。 再びの硬直――そして最大の好機をシグナムとヴィータは見逃さなかった。 「もらった!」 「そこだ!」 シグナムがサバイブレードで、少年を掴んだ腕を斬る。同時にバジークの肩をヴィータがサバイバスターで狙い撃つ。 バジークの体液が飛び散り、少年の腕に付着する。バジークの腕は外れ、少年はシグナムによって助けられた。 だが―― 「くそっ!こうなれば……!」 バジークは背を向け、洞窟の中へと駆け込んでいく。誰も追うことはできなかった。 何故なら、助けられた少年の顔は真っ青に染まり、顔中に汗を掻いているのだ。 「どうした!大丈夫か!?」 シグナムが少年の肩を揺さぶってみても返事はなく、苦しそうに頭を振るだけだった。 「シグナム!後ろだ!」 ヴィータの声に振り向くと、ジャリュウがシグナム目掛け剣を振りかぶっている。 「くっ!」 咄嗟にサバイブレードで受け止める。ブルーもイエローも、そしてヴィータも目の前の相手に精一杯のようだった。 シルバーとブラックの二人で少年を診ている。だが、会話の全てを聞き取ることはできない。 「どうだ……映士」 「真墨……多分……しかないぜ」 「本気か?……子供を……するなんて」 「経験者……だ」 真墨はしばらく何か考えていたようだが、しばらくして叫んだ。 「全員!撤退だ!」 「ええ!?」 その言葉にブルーやイエローも振り向く。驚きの声を上げるが、少年の顔を見てすぐに理解したようだ。 「早くしろ!ヴィータとシグナム、お前らもだ!」 「プレシャスはどうするんだよ!?」 「俺は既に命令した!!」 ヴィータはまだ何か言いたそうにしていたが、しぶしぶ走り出す。シグナムとシルバーも無言で従い、ブラックも少年を担ぐとその後を追う。 ブラックやシグナムよりも洞窟から遠くにいるイエローとブルーが、カースとジャリュウに向けサバイバスターを乱射する。撤退の援護だろう。 ビームは地面に着弾し、激しく土煙を上げた。逃げるにはちょうどいい。 だが、ブラックだけは洞窟を向いたまま、動かない。まるで洞窟から何かが出てくるのを待っているかのように。 土煙の向こう――洞窟の暗闇から『それ』は現れた。 赤と緑の混ざり合ったどす黒い皮膚――邪悪竜バジークだ。 唯一違ったのは、鈍色だったはずの瞳は金色に輝き、怪しい光を放っている。 シグナムは直感的に危機を感じ、身を隠す。 バジークの視線はしばらく宙を彷徨い、ゆっくりとボウケンブラックへと向けられた。 その時、ブラックの取った行動に、シグナムは己の目を疑った。 彼は――ブラックは抱えていた少年を盾に視線を防ぎ、その陰からサバイバスターを撃ったのだ。 視線を受けた少年は手足から徐々に色を失ってゆき、やがて苦悶の表情もそのままに完全に石へと変わってしまった。 「何やってんだ!早く逃げるぞ!」 重さを増した少年を担ぎなおし、ブラックは斜面を滑り降りていく。 「何なんだよ……!危なくなったら子供を盾にして逃げるのが冒険だってのかよ!ボウケンジャーなのかよ!!」 シグナムの横を走るヴィータが叫ぶ。どうやら彼女も見ていたらしい。 その声には怒りと悔しさ――悲しさが込められていた。 「主はやて……何故あなたは我らを……」 もう幾度となく呟いた台詞――それでも思わずにはいられなかった。 聞こえなかったのか、それともヴィータもまた答えを持たないのか。 その問いに答える者はいなかった。 次回予告 「子供を盾とするのが貴様らの冒険か!」 「無能な管理局に何ができる……」 「僕は食べられませんよ~!」 「あたし達にはあたし達の戦い方がある!」 「ヴォルケンリッターが将、シグナム!参る!」 「全車、轟轟合体だ!!」 ExtraTask03 「新たなる冒険者」 おまけ はやて「それにしても……あの二人は今頃どないしてるんやろか?」 シャマル「サージェスは家からは通えませんもんねぇ。そういえば、どうしてあの二人なんですか?」 はやて「う~ん。ほら、あの二人は頑丈やし、身体を動かすのも得意やん?」 シャマル「でもそれならザフィーラでも良かったんじゃないですか?」 はやて「せやけど、ザフィーラやと色が被ってまうやんか」 シャマル「はやてちゃん……髪の色は多分関係ないんじゃないかしら……」 はやて「え……?」 シャマル「もしかして一番の理由って……それなんですか?」 はやて「…………」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/cow1/pages/271.html
GOD TROY「CODE NAME 魔王」 格納庫内 説明 ゴッドトロイの封印状態の原因が核心部品のコア出力にあることが分かりましたが、同時にゴッドトロイをフル稼働させられるコアは現代の技術力では開発できないということも確認されました。そこでロボット工学者たちは、ヘルモードインストールというメインコアリミット解除システムを設置、緊急時にゴッドトロイの性能を100%フル稼働させるシステムを導入しました。しかしヘルモードインストールは、コアの過負荷問題によりかなり短い時間しか使用できないことが欠点です。 コード レベル 種類 識別 HP EN タイプ 攻撃 防御 スロ 速度 燃料 消耗 探知 積荷 バフ GODTROY UNKNOWN 65 大型 Troy-G 57000 26000 近接 3800 2700 5 160 150000 84 2200 5000 防御力+45%(100%) 入手方法 クエスト ゴッド トロイの手がかり[Lv55] 完了条件 報酬 トロイエースの部品[0/500]Dr.トロイの設計図TYPE.T[0/100] 封印されたゴッドトロイ[50] クエスト1 封印解除のためのコア1[Lv60] 完了条件 報酬 強化ブラックトロイ2DXのコア[0/1] 1,000,000exp クエスト2 封印解除のためのコア2[Lv60] 完了条件 報酬 未完成ビッグトロイのコア[0/1] 1,000,000exp クエスト3 封印解除のためのコア3[Lv60] 完了条件 報酬 クイーントロイのコア[0/1] 1,000,000exp クエスト4 ゴッドトロイ降臨[Lv60] 完了条件 報酬 封印されたゴッドトロイ[Lv50] ゴッドトロイ[Lv65]3,000,000exp 解説 変形により5分間ヘルモードになれるCT1時間 コメント 情報サイトの稼動SSを見る限り、イラストほど良くない、羽(?)の処理が雑でマジン●ーZが後半合体する飛行ユニットっぽく見える(4gamer.netなどで見てください) -- 名無しさん (2011-09-01 07 47 19) 口元はターンA、頭はちょんまげ生やしたバカ殿、腕を組んでいる姿はガンバスター、所々エピオン・・・ -- 名無しさん (2011-09-01 10 18 49) 顔のデザインはマスタッシュマンことソウルゲインに似てるような気もするが -- 名無しさん (2011-09-11 00 54 14) 人相悪いからツヴァイザーゲインのほうか -- 名無しさん (2011-09-11 00 55 24) S3が3回で落ちるらしい。全チャ情報 -- 名無しさん (2011-09-12 15 48 20) 確かに3回でおとああれましたw s3 -- 名無しさん (2011-09-12 15 53 14) スロットが5個なのがおしい -- 名無しさん (2011-09-25 23 34 54) 何か全体的にガン○ムWのデスサイズカスタム・・・・ -- 通りすがりのミサカ (2011-10-05 21 31 53) ヘルモードは今のところ最速移動速度かな?中佐ブースターと大勲位、シンクロ200でブースト1722、通常移動も315と移動に便利なヘルモードである -- 名無しさん (2011-10-12 19 34 52) 近接距離での殴り合いでの火力はS3さえも凌ぐ勢い、十分に用意をしていけばLv67の感染ルーフェミをソロで討伐可能、しかしいかんせん射程がどれも短い上にサブはすべてチャージ時間があるので使いにくい -- 名無しさん (2011-10-19 02 04 29) シンクロ200、中佐走行、熱暴走などがあれば ヒラ艦が2機いると新60のビッグトロイのタゲを全て持って耐える驚異の壁っぷり -- 名無しさん (2011-10-21 02 37 50) 肩は真ゲッターのようにも見え…る -- 名無しさん (2011-11-05 14 48 46) クエスト欄の枠組みわかりやすかったので、他のページにも使わせていただきました。 -- 名無しさん (2011-11-22 03 24 00) 絶対防御あれば、(ヒラ艦1機)真60のトロイでも耐えられる -- 名無しさん (2012-01-06 16 07 58) 別にクエこなせば手に入る機体ですが・・・武器装備が異常なまでに高いのですよGTは何とかしてもらいたいですね -- ナナシ (2012-02-13 23 16 25) PD壁としては近接機体で最高防御力を持ってるけれど、武器の性能がひどくてQTにタゲを奪われてしまう。 -- 名無しさん (2012-02-14 14 14 04) Lv55になったのに最初のクエストが出ないのはなぜ?出現条件とかあるの? -- 名無しさん (2012-08-01 11 51 53) 推測ですが、旧(Drトロイの秘密工場)で未完成のビッグトロイのコア(ステーションコア)を集めましたか?集めてないなら、それの次がビッグトロイのクエかもしれません。 -- 名無しさん (2012-08-01 14 33 35) クリアしてないクエストがあったのでおそらくそれだと思います。回答ありですmm -- 名無しさん (2012-08-02 13 05 55) 乗ってる人どのくらいいるのだろうかゴッドトロイ・・・ -- 名無しさん (2012-12-30 23 15 31) こいつもクイーントロイみたいにマーク2来ないかな・・・ -- 名無しさん (2013-01-02 19 51 00) 「持ってる」人はかなりかと。「乗ってる」となると使い勝手が…^^; -- 名無しさん (2013-01-03 00 48 37) これ雑魚すぎる・・・可変で防御下がるし・・・ -- 名無しさん (2013-02-03 14 25 45) 雑魚とか関係ないと思うよ武器そろえば意外と使えるから↑は武器もそろえられない低能でFA -- 名無しさん (2013-02-05 02 42 36) 格納庫の無駄だね、移動ならテンペストのR1チューニング使えばいいし -- 名無しさん (2013-02-09 16 13 19) 武器集めたうえで言ってるんですけどね。 ↑の↑ -- 名無しさん (2013-02-09 16 15 15) カコイイそれだけで強い、↑の米うざいからいい加減黙って -- 名無しさん (2013-02-09 16 17 11) 変形が制限無しで出来てサブ武器のCTがせめて半分だったら強かったのに -- 名無しさん (2013-02-09 17 52 24) あるいはパンチの準備なしとかスロ6とかならね -- 名無しさん (2013-02-10 13 09 03) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2187.html
削除されました。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3157.html
「……どういうことだよ?」 「どういうこととは何ですか、ヴィータさん」 「惚けんな。そりゃああの場で即座にドンパチって訳にはいかなかったけど、それでもアイツと話し合うなんざこっちは聞いてねえぞ」 そう不満も顕に詰問するヴィータにしかしエマージーは相変わらずの態度のまま、 「まぁまぁ、落ち着いてください」 等と宥めすかそうとでもしてくる始末だ。 尤も、そんな相手の態度には乗れないのがヴィータだ。こちらとしては最初から戦闘を当然と念頭に置いてやって来ていたというのに、それこそいきなりのお預けだ。 「ジグマール隊長の特命だか何だか知らねえが、あたしたちには関係ないだろ」 それがヴィータの本音だった。いいからつべこべ言わずにアイツをぶっ飛ばさせろというのがヴィータの望みだ。 だいたいあの手の猛獣が話し合い等と言ったものに応じる可能性自体が皆無に等しいなどというのは火を見るよりも明らかだ。 凶悪犯罪者なのだから問答無用で捕まえればいい、実力行使は相手だって望むところのはずだ。 「……それとも何か、あたしがアイツに勝てないとでも思ってるのか?」 それこそこの部分に最大限のドスを利かした問いに、エマージーは滅相も無いと慌てて首を振ってくる。 舐められている、先のカズマの侮辱発言から以降どうにも苛立ちが治まらないヴィータにしてみれば、この現状は総じて茶番だった。 しかし――― 「まぁ落ち着いてください、ヴィータ副隊長。……それに私も賛成です、話し合って解決できるならそれに越したことはありませんよ」 スバルまでもが何故かエマージーのこの行動に賛同を示してくる始末だ。 はっきり言って訳が分からなかった。話し合いで解決できる? まさか本当に本気でスバルはそんなこと思ってるんじゃないだろうな。 話し合い云々以前に、話し合いそのものがまともには成立し得ないだろうことは目に見えている。それはあの男と唯一以前直接戦っているスバルが一番予想が付いていることではないのだろうか。 ……やはりスバルも何処か変だ。そんな咬み合わないズレのようなものを否応にも感じざるを得ない。 「此処は私に免じて任せてはもらえませんか? ええ、必ずや上手くいく結果をたたき出してみせますから」 私のプライドとピンチに懸けて、と少年たちに見せたのと同様の言葉と笑みを自信たっぷりに示してくるエマージー・マクスウェル。 無論、子どもたちと同じようにキラキラと希望に満ちた視線をヴィータが見せるはずもないのは明らか。 だが「ヴィータ副隊長」等と促がし説得してくるスバルのこと、そして一応は正真正銘のジグマールからの特命であるエマージーの行動を無碍にすることも出来ない。 「…………四面楚歌、か」 実に面白くない、そしてそれ以上に歯痒い。そんな苛立ちも顕にした舌打ちを吐きながらも、結局此処は自分が折れる以外に道は無かった。 チラリと背後のこちらの後を付いてきているカズマを見る。 なのはをおかしくした、誑かしている元凶。 自分たちの絆を脅かそうとしている明確な自分にとっての敵。 漸くに、目の前に現れ手を伸ばせば届きそうなところで手出し禁止など……。 実に歯痒く、そして他の何よりも無念だった。 畜生、そう今は憎々しげに睨み付けることしか出来ない。 これでは自分は本当に何の為に来たのか、それが彼女には本当に分からなくなってきていた。 「あぁ素晴らしい、懐かしい。私も元々はこちら側で生まれ育った人間ですからね、色々なことを思い出しますよ」 そんなことを呑気に言ってくるエマージー・マクスウェルをカズマは知ったことかと苛立たしげに睨み付ける。 先の町より僅かばかり離れた場所、かつては川を繋ぐ高架の残骸の先端にて対峙し合うカズマと君島、そしてホーリーの連中。 それこそ今にでもゴングを鳴らして喧嘩を始めたい、その一心以外にはカズマには無いと言えた。 「ウダウダ言ってねえでとっとと出せよ! テメエのアルターを!?」 そう怒鳴り拳を強く握りこむ。こちらはいつ始めようと構わない。むしろ御託なぞウンザリだった。 だが殺気と怒気の敵意を凄まじいブレンドで発するカズマを見てすら、エマージーのその余裕は崩れる素振りもない。 「私が戦う心算は毛頭ありません。分かりますか? ホーリーと言っても様々な人間がいるのです。そう……例えば、貴方が身体を洗う時、奥の御仁と同じ順番で洗いますか? 答えは違う、ずばりノゥです」 そう言って気取った態度で髪を掻き揚げるエマージー。非情に不愉快且つ下らない言葉遊びだ。 因みに、奥の御仁とはエマージーから見てカズマの背後にいる君島を指している。 「……つまり、アンタはインナーを無理矢理連れて行ったりしないってことか?」 信用できないといった態度を隠そうともせずに疑問を口にしたのは君島邦彦である。短気で話し合いそのものに不向きなカズマの代わりに口を挟んだのである。 「はぁい。確かに我が隊にはその手の人間が多い。大変憂慮しています、遺憾の極みです」 白々しい台詞を続ける相手に、カズマの苛立ちは益々募っていく。 しかも相手のその慇懃無礼な態度はソレをわざと増長させているようにしか思えない。 カズマと君島がそう思っていたのと同様に、それはヴィータとスバルもまた思っていたことだった。 どうにも雲行きが怪しい、これは説得とやらを兼ねた話し合いではなかったのか? これではエマージーがただ徒にカズマを挑発しているようにしか見えない。 このままでは遠からず、それこそ直ぐにでも相手がキレだすのは目に見えている。 そして、そんなヴィータの予感は見事に的中する。 「……しかしながら、カズマ君のような駄目人間もインナー側には多い―――」 ―――瞬間、飛び出したカズマの拳が見事にエマージーの頬を殴り飛ばす。 「ッ!? エマージーさんッ!?」 「エマージー!?…………てんめぇ……ッ!?」 先に挑発したのはエマージーの方だ。その非は充分にある。 だがしかしながら、それでも一応は仲間である対象が敵対する相手にいきなりの暴行を受けたのだ、これを黙ってはいられない。 それこそヴィータもそしてスバルもまた思わず飛び出そうとした。 しかし、それをエマージー・マクスウェルは手振りで制す。 問題ない、貴女達は下がっていてください、と……。 「誰がクズだってぇッ!?」 それこそ相手を殴ったことすらなんのその、苛烈な怒気も顕に真正面から相手を睨みつけ怒鳴り散らすカズマ。 だがエマージーは殴られた頬を擦りながらも相変わらずの態度を崩す素振りも未だ見せない。 「う~ん、言葉より先に手が出るとは正にこのこと。しかしながら、ぜぇんぜん効きません」 「んだとぉ!?」 それこそもう一発ぶち込んでやろうかとカズマは怒りも顕に拳を握り固める。 「良いですか、考えてもみてください。このロストグラウンドはまだまだ未開発です。しかしながら、貴方のようなその場の快楽のみを追求して生き続ける何の生産性も無いカッコつけのクズが―――」 そこで再びカズマの拳がエマージーの頬を殴り飛ばす。 「誰がクズだってぇッ!?」 二度目の挑発に二度目の暴行、流石にこれ以上はいくらなんでも見過ごせない。 話し合いは決裂、選手交代だろうとヴィータは考えていた。 「スバル、エマージーを連れて下がってろ。後はあたしが―――」 「―――勝手なことはしないでもらいたいヴィータさん。それにこんな弱々しい拳では危機感すら感じませんよ」 だがあろうことかまたしてもそう言ってヴィータを制してきたのはエマージーだった。 しかも先程よりも今度は強い調子で、だ。 コイツはいったい何考えてやがんだ、そんな心底分からないといった態度も顕に顔を歪めるヴィータ。 だがそれ以上に傍から見ていて茶番劇だと感じていたのは君島邦彦である。故にこそいい加減に彼自身もまたウンザリして口を挟む。 「いったい何が言いてぇんだ、アンタ!?」 君島のその問いにエマージーはふむと指を顎に当てて思考するようなポーズを取ったかと思えば、 「そうですねぇ、そろそろ本題に入りますか」 やっとそんなことを口にしてきた。 先程までのやり取り、それは本当に文字通りの茶番だったらしい。 苛立ちや脱力をエマージー以外の全員がこの場で抱きながらも、しかし当のエマージー自身はといえば気にした様子も無く言葉を続けていく。 「カズマ君、もう一度ホーリーに入る気はありませんか?」 それは今更というには当然過ぎる、最も馬鹿げた言葉だった。 当然、カズマもまた「ハァ?」と言った態度を露骨に示す。 確かに以前に一度、カズマは仮初とはいえホーリーに入隊している。 それは君島からの依頼を受け、捕まったネイティブアルター達を助け出す為にだ。 そうでなければどうしてあんな組織になど加わるか、本土の犬など絶対にお断りである。 「ジグマール隊長は貴方の事を大層気にかけています。貴方がホーリーになればお友達も裕福な暮らしが出来る様になりますが?」 それが飴の心算なのだろうか、まったくもって見くびるなである。 「おい、君島」 「ああ、カズマ……コイツに言ってやれ」 以前の君島ならばこの誘いにはそれこそ「マジでぇ!?」とでも喰いついたかもしれない。 だが今の自分はそこまで落ちてもいなければ安くもない。“シェルブリット”のカズマの相棒として既に覚悟は固まっているのだ。 「テメエ、俺と俺の相棒を安く見積もってんじゃねえよ! んな誘い誰が乗るか!」 そう一蹴するカズマの言葉に君島もまたエマージーを睨みつけながら頷いた。 「答えはノゥだ! 何故なら、ホーリーのやり方が気にいらねえッ!」 我が物顔で偉そうに、何様の心算か知らないが一方的に人様の縄張りに踏み込んできて好き勝手、気に入らないなどという言葉すら生温い。 そんな本土の犬に成り下がるなど死んでも御免だ。 「第二に、あっちにはムカつく野郎どもがいるッ!」 その筆頭は言うまでも無く、劉鳳と高町なのは……あの二人だ。 嫌悪だとかそんな生温い表現ではない。兎に角、根本から絶対的に相容れることなど出来ないのは間違いない。 必ずこの手でぶっ飛ばすとも決めているのだ、これだけは絶対に変えることも出来ねば譲ることも出来ない。 「そして第三に……俺はお前をボコりたくてしょうがねぇ!」 そしてこれこそがこの場では一番の理由だ。 こちらを偉そうに見下して、あまつさえクズなどと二度も言いやがった。 ギタギタにしてやらねば、この怒りは到底治まることはないだろう。 以上の三点を以って、問答無用の交渉決裂をカズマは相手へと叩きつけた。 予想通り、結果は失敗に終わった。 考えるまでも無い、最初から分かりきっていたことではないか。 「……ふぅ、交渉決裂ですか」 溜め息を吐きながら漸くにそれを認めたエマージーを確認すると共に、今度こそ自分の出番だろうとヴィータは確信する。 何も時間の無駄でしかないあんな茶番など行わず、最初から自分に任せておけば良かったのだ。 実力行使、それこそが最も手っ取り早く且つ相手も賛同する方法だったろうに。 ……まぁ、今更グダグダと余計なことは言うまい。 兎に角、これで漸くあの男を……自分たちの敵を排除できるのだ。 それを今から確実に行うのだ、それ以外はこの場では全て余計なものでしかない。 「エマージー、下がってな。スバルはそいつを護っとけ」 そう言いながら前へと出るヴィータ。それをカズマは胡乱な眼つきで睨む。 「あん? 餓鬼、テメエがやる気なのか?」 「誰が餓鬼だ!? あたしはテメエよりも年上だッ!」 ヴィータのその発言にそれこそカズマと君島は驚いたように目を開く。 マジで、とその目はそんな疑問を雄弁に語っていた。 益々ヴィータの中の怒りのヴォルテージは高まっていく。本当に、ぶっ殺してやりたいと本気で思うほどに無礼極まりない連中だ。 もうこんな輩共と言葉を交わす必要は無い、それ自体がそもそも無用であり不快なだけだ。 故にこそ、後は実力行使とヴィータはアイゼンを起動させようとしたその瞬間だった。 「あぁ! 一つ言い忘れていました!」 いきなりポンと手を叩きながら思い出したように叫びだすエマージーに全員の視線が瞬時に集中する。 だがそんな見られている視線にすら満足した様子も顕に、エマージーがニヤリと笑みを浮かべる。 ……酷く見覚えのある、嫌な笑みだった。 「先程子どもたちにあげた玩具の中に、ちょっとした細工を仕掛けておいたんです」 ドクン、とエマージーが発したその言葉にヴィータは己の胸が嫌な予感に高鳴ったのを隠すことが出来なかった。 そしてそれは同様に、スバルもまた同じようであった。 「なぁに原理は簡単です」 そう言いながらエマージーは制服のポケットからスイッチのようなものを取り出す。 やめろ、そうヴィータは思った。 「この装置のスイッチを押せば」 そんなはずはない、そう強く否定したかった。 そんなことをコイツはしない。そんな無垢な子どもたちを裏切るような真似など…… 「玩具の中に入っているあるモノが」 子どもたちの笑顔が脳裏に過ぎる。 最近殺伐となりすぎて忘れていた、自分たちの原点を思い出させてくれたあの笑みを。 あの笑みを……コイツは――― 「ズッドーン」 ―――裏切るような、ことをしたのか…………? 「何だとぉッ!?」 そう驚きも顕に叫んだのは君島だった。その隣のカズマもまた怒りに満ちた眼でエマージーを睨みつける。 ヴィータはそれこそ信じられないといったように呆然と、そしてスバルに至っては顔を青くして震えていた。 「今頃両親や兄弟に貰った玩具を見せびらかしている頃―――」 それが傑作だと言わんばかりに、それこそ顕にした卑劣な笑みで言葉を紡ごうとしたその男を――― ―――瞬間、二つの衝撃が殴り飛ばした。 一つはカズマ、その相手に対して怒気どころか殺意すらも含めた拳の一撃を。 そしてもう一つは――― 「………テメエ……………………?」 「………ヴィータ……副隊長……?」 ほぼ同時に飛び出したカズマ、そして呆然とした様子のスバルが口を開く。 エマージーが殴り飛ばされたのと同時に手から零れ落ちた装置のスイッチ。 それを彼女はしっかりと受け止め、そのまま力一杯に握り潰した。 「……おやおや、どういう心算ですか?」 流石に殴り飛ばされた影響で地面に尻餅をついていたものの、エマージーの態度は相変わらずなままだった。 だが彼のその疑問に対し、彼女――― 「どうもこうもねえ…………随分と、ふざけたことやってくれたじゃねえか」 ―――“鉄槌の騎士”ヴィータはただ吐き捨てるように彼を烈火の如く睨みつけていた。 本気で怒っていた。 だからこそ、ヴィータは躊躇うことなくアイゼンを起動させそのままエマージーの腹に鉄槌を叩き込んだ。 裏切られたこと、それに感じる怒りは当たり前だ。 だがそれ以上に、ただこの男が無垢なる子どもたちを裏切っていたということが何よりも許せなかった。 本来ならばこれは許されざる懲罰ものの行いだ、その自覚は彼女にだってある。 だが知ったことか、そんな向こう見ずな怒りの方がこの卑劣な男を許すなと己を駆り立てていた。 「……テメエみたいな奴を意外にもいい奴だなんて勘違いしてたとは、あたしも随分と耄碌してたみてぇだな」 そう吐き捨てながら、ヴィータはそのままアイゼンを尻餅をついたままのエマージーへと突きつける。 「覚悟は出来てるんだろうな、クソ野郎?」 相手が戦力外通知ものの無能力者だなどは関係ない。 この男は誇り高き夜天の守護騎士の目の前で非道を行い、あまつさえそのような外道の所業に自分を加担させた。 騙されていた云々は言い訳でしかない。この失態と贖罪は己が手で晴らさねばならない。 そうでなければ仲間達に……なのはやはやてに顔向けすら出来なくなる。 故にこそ、この男は自分が処断する。 それを態度でありありと相手へと叩きつけるヴィータ。 しかしエマージーはそれにすらニヤリと笑みを浮かべるのみである。 「……何が可笑しいッ!?」 その態度が気に入らず、怒鳴りつけるヴィータにエマージーは「いえね」と再び素早くポケットからある物を取り出す。 「先程貴女が壊したのは実は偽物。本物はこっちですよ、と言いたかっただけですよ」 そう、エマージーが持っていたのは先程ヴィータが握り潰した装置とまったく同じ物であった。 それを見た瞬間、ヴィータの動きが動揺で固まる。 だがそれすら無視して横合いから駆ける影が一つ。 「君島ぁ、餓鬼どもんとこに行けぇ!」 そう、カズマが飛び出すと同時にエマージーの手から装置を思い切り蹴り上げた。 君島はカズマの言葉に快い応答を示しながら、その落下してくる装置をキャッチしてそのまま町へ向かって走り出した。 そこで漸くハッとなったヴィータはすぐさまスバルへと視線を移して声を上げる。 「スバル、お前も行って子どもたちから玩具回収してこい!」 そのヴィータの命令に青い顔をしていたスバルは漸くこちらもハッとなって頷くと、マッハキャリバーを起動させて駆け出した。 「……どういう心算だよ」 それを不審げに見送りながら、カズマはヴィータに視線を戻してそう尋ねる。 無論、こちらにもありありと不審が籠もりきった視線だった。 だがカズマのその態度にすら、ヴィータは苦笑を浮かべ肩を竦めながら答えるだけだった。 「だからどうもこうもねえよ。そんな心算は無かった、知りませんでしたじゃ済まないだろ?……だから、あたしたちはあたしたち自身で責任のケツ持ちしなきゃならねえんだよ」 ただそれだけのことだとヴィータは言った。 急げ、そう自らの足を必死に急かして走らせはするものの先日に負った傷のせいで思うようにスピードが出ない事実に君島は苛立っていた。 本土からアルター使い部隊が増援へとやって来る以前、君島は自身の持つ情報網の粋を尽くしてホーリーに対抗するネイティブアルターの連合を結成した。 ……だが結果は惨敗。集ってくれたアルター能力者たちはカズマを除いて全てが敗北し捕縛され、君島は自身の身を命からがら逃げ延びさせるのに精一杯だった。 実に情けなく、そして悔しかった。当然だろう、自分は逃げ延びることが出来だって捕まった者の中には自分が惚れていた女性だっていたのだ。 惚れた女一人守りきることも出来ず、自分だけが助かった。君島に残ったのは多大な虚無感とアルターすら持てず戦うことすら出来なかった己に対する無力感と不甲斐無さだけだった。 だからこそ、もう逃げれないのだ。あの時、一人だけ無様に生き残り、相棒に渇を入れられるまで燻っていることしか自分は出来なかった。 だがそんな自分をやはり許せず、そして相棒の何者にも屈さぬ強き反逆の姿勢に感化され、吹っ切れた。 もう自分は立ち止まれない、燻っていることも許されない。体の痛みに音を上げるなど、甘ったれた逃避でしかない。 そんな姿では、カズマの相棒ではいられない。 だからこそ、君島邦彦は走るのだ。 カズマに相応しい相棒でいる為に。そして今度こそ寺田あやせに逢った時に見捨てずに逃げ出さない為に。 走る、そう走って抗い続けるのだ。 それをテンション向上の支えとして、痛む古傷の訴えを必死に無視しながら君島は自身が出せる全速力で町へと向かう。 だがやはり遅い、これでは間に合わないかもしれない。あのクソ野郎の爆弾が今にも爆発するかもしれない。 そしてその結果として、あんな無垢な子どもたちが裏切られて命を落とすかと考えると……… 「………クソッ、これが本土のやり方かよッ!」 苛立ちの言葉と舌打ちが漏れるのも致し方ないというものだ。 だがそんな君島の独り言の苛立ちと非難に対してすら返ってくる言葉があろうなどとは本人としても予想だにしていなかったことだった。 「………ごめんなさい。……私たち、その……知らなくて……ただの玩具なんだってずっと思ってたから………」 思わず直ぐ間近で聞こえてきたその言葉に振り向いた君島は、それこそ咄嗟に悲鳴を上げるところだった。 自分と並走するようにあの以前カズマと戦っていた青髪の少女―――本土のアルター使いがいたのだ。 何で此処に、というより自分を追いかけてきたのか?………咄嗟にそう考えた君島は立ち止まって懐から拳銃を取り出すと共にそれを少女へと向けた。 「動くな!……俺があの子達から玩具を回収しようとしてるのを邪魔しようってんなら………悪いが、撃たせてもらうぜ」 アルター使いといえど人間であることに変わりは無い。アルター能力そのものは驚異的なものであることは否定しようのない事実だが、この距離でならば自分の方が相手よりも早く引鉄を引ける可能性の方が高かった。 無論、君島とてロストグラウンドに生きる一介の無頼。護身用とはいえ自らの命を守るために銃を持っているのだから、人を撃つ覚悟が無い訳ではない。 ……尤も、だからといって問答無用で容赦なく躊躇いもせずに相手の急所を撃てるわけでもなかったが。 だがこの瞬間、拳銃を相手に向けたその時から、君島は最悪の場合も予想してある程度の覚悟は決めていた。 此処で捕まるわけにはいかないのだ。相棒から頼まれているという手前、そして君島自身としてもあの子どもたちを助けたいという思いが強かった。 ……その為ならば、引鉄を引く覚悟だって決めよう。 そう相手を睨むように見据える目からも語りながら、君島は相手の様子を窺う。 並走していた少女はこちらが銃を向けたその瞬間から、こちらの警告通りに立ち止まりこちらを見ていた。 その奇妙な格好は兎も角として、相手側からの敵意や対抗の素振りはなかった。 それどころか……… 「……あ、あの……今はこんなところでこんなことやってる場合じゃないと思うんです。……私が言っても信用してもらえないのは分かってます、けど今はあの子達から玩具の回収をする方が先だと思うんです」 そう言ってまるでこちらを説得でもするような態度を見せる少女を、君島は益々疑う眼つきで見据えた。 「……ああ、信用できないね。元はと言えばあんた等が子どもたちに配った玩具だろ。今更なんでそれをあんた自身で回収しようなんてしてるんだよ?」 「そ、それは…………さっきも言いましたけど、知らなかったんです。玩具の中に爆弾が入っていたなんて!」 「知らなかったってのがそもそも信用できない。あんただってアイツと同じホーリーなんだろ? しかも本土出身だ………腹の底じゃあ俺たちインナーなんざ虫けら程度にしか思ってないんじゃねえのかよ!?」 「そ、そんなこと…………」 ない、そう言いたいのだろうがショックを受けた面持ちは震えてそれ以上の言葉を少女の口からは漏らしていない。 こちらの怒気を込めた糾弾に本気で申し訳なさを見せているように見える少女……これが本当に演技なのかどうかは正直君島にさえ判断がつかなかった。 本土出身のアルター使いで自分など及びもつかない力を目の前の少女が持っていることは恐ろしさと同時に理解している。 だというのに、この少女からはどうしてか他のホーリーの連中からは感じるようなおっかなさを感じないのだ。 それは彼女がこちらに抵抗や敵意を示していないことが要因である事は間違いないだろう。だがそれだけではない、この少女から感じる奇妙な思いはそれだけでは説明がつかない。 もっと別の理由があるはずなのだが…………今は時間が無い。少女の言葉ではないがここでもたつく時間だって勿体無い。 だからこそこの少女への奇妙な違和感に関する部分は後回しに、君島はこの場での妥協点を探し、それを相手に告げる。 「……オーケー、こんなとこで言い争っている時間が勿体無いのは確かだ。だからこうしよう、俺は町に戻ってあの子達から玩具を回収する。けれど俺じゃあの子達は素直に玩具を渡してくれないだろう。だから―――」 ハッキリと相手を真剣に見据えて君島は告げる。 これは賭けだと、この少女に対する見解の自分なりの結論を信じての選択だと自身に言いきかせて。 「―――だから、俺はあんたを信用しよう。この時だけは、な。だからあんたから子どもたちに説得して玩具を回収するように動き回る。………今はそれが一番効率が良いはずだ」 無理矢理奪おうとしたのでは抵抗に合って余計なタイムロスをする可能性だって高い。カズマがあの男を叩きのめしているだろうとはいえ、いつ爆弾が爆発したっておかしくないのだ。 回収はそれこそ速度が命の時間との戦いとなるだろう。 ならばこそ、この判断が正しいと今は信じる。どう考えても子どもたちを含めてあの町の住人の信用に関してはこの少女の方が上だ。 だからこそ、この少女に賭けようと君島は結論付けたのだ。 それに……… 「……やっぱ本土のアルター使いだろうと何だろうと、泣きそうな顔してる女の子が相手じゃあ俺がいじめてるみたいで気分良くないしな」 基本、これでも女の子には優しくが君島邦彦のモットーでもある。 良く見ればかなり可愛い少女でもある……決して下心で動かされたわけではないので悪しからず。 「……信じて、くれるんですか?」 「今は、な。さぁ、行こうぜ。お互い時間が惜しいのは共通だろう? 自己紹介は走りながらでもしようや」 そう言ってこちらに銃を向けていた少年は、その銃を仕舞うと共にそのまま町へと向かって駆け出した。 一拍遅れて、漸くハッとなったスバルもまたその後に慌てて続く。 「あの、私……スバル、スバル・ナカジマです」 「スバルちゃんね、俺は君島邦彦……まぁ宜しくな」 並走し追いつきながら先に自分から名乗ったスバルに、君島は屈託のない笑みを浮かべながら名乗り返してくる。 どこか生来のひょうきんな態度を隠しきれてはいない。彼がそう言ったタイプのどこかお調子者な人間であることは何となく分かった。 だがそれだけではない、自分を信用してくれたこともあるが……この人はきっと良い人なんだろうなとスバルは思った。 橘あすかの時もそうだった、あの町の子どもたちや住人に関わった時だってそうだった。 確かにホーリーの任務でこの大地に巣くう犯罪者を何人も捕まえてきた。凶悪なネイティブアルターだってその中にはいた。 けれど、やはりそれだけではない。この大地の住人たちだってやはり自分たちと何ら変わらない人間ではないか。 犯罪者に分類されるあのカズマの共犯者であるこの君島だってそれは同じだ。 やはりこの人たちにはこの人たちなりの、守りたいものやルールの為に戦っているのだろう。 それと対立し、一方的に組み伏せてしまうことはやはり正しいことだとは言えないのではなかろうか。 僅かばかりの君島との先のやり取りのこともあり、スバルはそれを益々考えざるを得なかった。 「退いてろ、コイツはあたしがやる」 「ふざけんな、俺がボコるんだからテメエこそすっこんでろ」 火花散る、などと表現しても良さそうなほどの激しい睨みの利かせあいを展開しながらカズマとヴィータはどちらがエマージーを倒すかで揉めていた。 カズマとしては当然、この無性に苛立たしいボコりたくて仕方のないホーリーは自らの手で殴り倒す心算だったし、ヴィータの方にしても己が存在意義たる騎士の誇りに賭けても自分の手で始末をつけなければ気が済まなかった。 共通に狙う獲物が同じなら、ならばどちらかが譲り合いの精神を展開するか………そんな事、この二人に限っては間違っても起こるはずもない。 それ故の眼前の獲物を前にしてのいがみ合いの牽制だ。流石にそれに呆れたのはその獲物当人であるエマージーであったほどだ。 「……やれやれ、私を無視してそっちのけの喧嘩ですか? まったく嘆かわしい。この“崖っぷちのマクスウェル”を舐めるのも大概に―――」 「「―――るせえ、テメエは黙ってろ!」」 見事にハモった二人の怒声がエマージーの言葉を断ち切る。 それに面食らう形になったエマージーは一瞬呆然としたものの、やがて怒りに身を震わせるといった様相に立ち戻り持っていたそのスイッチを二人に見せ付けるように突きつけた。 「……そ、そこまで私を馬鹿にしようとは……いいでしょう、ならばその愚かさを後悔しなさいッ!」 そう言ってそのスイッチを押――― 「「何しようとしてんだテメエはッ!?」」 ―――す前に瞬間的に飛んで来た拳と鉄槌が問答無用でエマージーに叩き込まれ、彼を吹き飛ばした。 絶叫を上げながら吹っ飛んでいくエマージー。それを怒りの形相で追いかけるカズマとヴィータ。 「……これはまた、随分と奇妙な展開だな」 ホーリーアイの監視衛星の映像をイーリィヤンのアルター“絶対知覚”を中継して観察していたジグマールはそんなコメントと共に溜め息を吐かざるを得なかった。 事の経緯の一部始終は見ていたため状況の程は理解できる。しかし………… 「……成程、やはり彼女たちの潔癖ぶりは予想通りか」 或いは部下である劉鳳とも大差ない高潔さを彼女たちが持ち合わせていることには気づいていた。 事実、己の掌の上と承知しているが高町なのはと桐生水守の行動を見ていてもそれは明らか。 ならば他の彼女の部下たちもまた同じというのは想像にも難くない。 結果から見れば卑劣と取れるエマージーのやり方に、彼女たちはやはり激怒した。 これを反逆や離反と取るべきかどうか……… 「……どちらにしろ、問題行動と突きつける口実にはなる、か」 交渉のカードを一つ手に入れた……ささやかなものであるが、そう捉えても構わないかとジグマールは判断する。 だがそれもまた今は置いておこう。問題はこの状況だ。 「……まぁどうであれエマージーの奴にとっても悪くは無い状況だろう」 先ほどの苦味のあった表情とは打って変わり、どこかニヤリと笑みを浮かべるジグマールの表情には余裕と自信が窺える。 どうみてもカズマとヴィータ……同時に相手にするには分の悪すぎる相手に追い詰められる部下の窮状は文字通りに絶体絶命にも関わらずそんな態度を崩す様子は微塵も無い。 それは彼が追い詰められている部下にある種の確信を抱いている証拠なのか…… 「“崖っぷちのスーパーピンチ”……久しぶりに拝めそうだ」 ハッキリとした笑みと共にそんな呟きを漏らしたその直後だった。 部隊長室に鳴り響く呼び出し音。 『ジグマール隊長、桐生氏が面会を求めていますが』 執務机に置かれたパソコンより告げられてきたその言葉にジグマールは眺めていた画面からその視線をそちらの方向へと向け直す。 「いいだろう、直ぐに通してくれ」 『分かりました』 そろそろ来る頃だとは思っていた。直談判にかの娘がいずれこちらに直接乗り込んでくるのはある程度予想できていた。 (……だが高町なのはが諌めるかとも思っていたのだが、抑えきれなかったというところか) 桐生水守にしろ高町なのはにしろ、マーティン・ジグマールの目から見てみればやはり未だに未熟さがある少女であることは事実。 だがどちらも小娘と侮るには危険であることは充分に理解している。その秘めたるポテンシャルは油断と放置を過ぎればいずれジグマールの絶対的有利すらも覆すことだろう。 (……やはり彼女たちにはこの辺りで手を打っておくことも必要か) それが目的として必要ならば、リスクと比較し間違いなくそれを行うのがマーティン・ジグマールだ。 なればこそ、小娘たちを相手に容赦の無い先手を打つことすら彼には迷いも躊躇いも無かった。 執務室の扉が開き、真っ直ぐにこちらを見据えた桐生水守が静かに入室してくる。 果たして彼女が飛んで火に入る夏の虫の如き末路を辿るかどうかは彼女自身のこの先の行動次第だろう。 今はただ観察者としての側面ではなく、部隊長として彼女を向かい入れる為にジグマールは真剣な表情と共に口を開いた。 「……す、素晴らしい。このスーツが無ければ、今頃私は天に召されているでしょう……」 そんなことを呂律も回らぬ口調でフラフラしながら言ってくるエマージー。 拳と鉄槌を先程から容赦なくぶち込まれているにも関わらず、ここまで耐え切って見せているのは或いは驚嘆にも値することだろう。 「ごちゃごちゃ言ってねえで、いい加減テメエのアルターを出しやがれッ!」 一方、相手の賛辞(?)には見向きもせずに犬歯を剥き出しに怒鳴り、近付いていくのはカズマ。後詰には鉄槌を肩に担いだヴィータもいる。 「……そいつ、自分のピンチにならないとアルターってのが発現しないらしいぞ」 下衆を相手にとはいえやはり騎士の誇りが傷つくのは堪えるのだろう、手を出すことを控え苦み走った表情と共にカズマへとそんな説明をするヴィータ。 しかしカズマにしてみれば関係の無いことだ。ピンチとやらにならなければ出せないだなどと言うふざけた能力ならば、文字通りピンチを作ってやるだけだ。 どれ程強度の高い強化スーツを着ているのかは知らないが、ダメージが浸透しているのは明らか。ならば畳み掛けるようにカズマはそのまま拳を叩き込んでいくだけだ。 一発身体に拳をぶち込ませる度に「召される、召されてしまう」等と言った気持ちの悪い呟きを漏らす相手にカズマは益々苛立ちをましていく。 やがて――― 「私に偉大なピンチをぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」 等と凄い勢いで目を見開きながら相手の方から掴みかかってきたので、咄嗟にそれこそ手加減抜きでカズマはエマージーの顔面を殴り飛ばしていた。 奇声を発してそのまま吹っ飛んでいくエマージー。気がつけばその場所はそれこそ後の無い断崖絶壁……崖っぷちであった。 「どうしたぁ!? 立てよ! 立てっつってんだろ!」 呵責も何もない獣のような怒鳴り声。 それに対してエマージーは倒れた身を震わせながらも何とか立ち上がりながらそれでも余裕の態度を示すように口を開くも――― 「……やれやれ……せっかちな…人です―――」 ―――その続きが紡がれることはなかった。 それも当然だろう。顔を上げた視線の先……そこに広がる光景を彼は見てしまったのだから。 「……が………崖っぷち……ッ………!?」 震える自身の声通りの光景がそこにはある。 「…がが…崖…ッ……崖―――――ッ!?」 今までの気取りすかした態度とは百八十度転換したような驚愕……否、それは恐怖の表情だった。 「い、嫌だぁぁああ! お、落ちたくないッ! 此処は嫌だぁ!!」 目尻に涙を浮かべ、頭を崖とは反対方向に急いで向け直し、絶叫しながらその頭も抱えて蹲る始末。 カズマとヴィータ……その両者のどちらの眼からしてもその彼の変貌が狂態と映ったのは言うまでもないことだろう。 事実、どちらもエマージーの豹変に訳が分からずに思わず戸惑いを示してしまっていた。 「……誰か……誰か……助―――」 「―――今更遅えんだよッ!」 だがヴィータよりもいち早く立ち直ったカズマは、無様そのものと言って良い姿を見せる相手にすら何ら同情を見せる素振りもなく……それどころかその無様さに更に苛立ちが増し反吐が出たと言わんばかりに冷たく切り捨てて詰め寄っていく。 一方、ヴィータの方は流石にそのエマージーの姿には良心が痛んだのか、思わずカズマを止めようと声を上げようとしていた。 だが結果的にそれは行われなかった。 「ピンチだ! デンジャラスだ! 僕のピンチだぁぁあああああああああああ!!」 それを掻き消すようにべそを上げた叫びと共に、エマージーに変化が起こりだした為であった。 エマージー・マクスウェルを中心にアルター発現の証である虹色の光の粒子が出現。 続いて彼が腕にしていたホーリー隊員用の腕時計が別の形状の腕時計へと変化していく。 「助けてぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!」 それだけではない。エマージーのその恥も外聞もないSOSの言葉が響くと同時に強い地鳴りが辺り一帯に発生していた。 いきなりの状況にそれこそヴィータは驚き、何事かと周囲を見渡しかけるも真正面……つまりエマージーのいる方向に起きた変化を見てそれこそ絶句した。 「助けて! 僕の―――スーパーピンチクラッシャァァァアアアアアアアアアアアア!!!」 エマージー・マクスウェルの辺り一帯に響かんばかりの絶叫。 そして虹色の粒子と地鳴りと共にひび割れた地面から現れた黄色い巨大ロボット。 「……お、おいおい……まさかコイツのアルターって………」 この眼前のコレだと言うのではないのだろうな、と驚愕と呆れを含んだ表情と共にヴィータは思わず呟いていた。 「うわっ! 何だありゃ!?」 「ろ、ロボット!?」 遠目からでもハッキリと見えるソレの出現に、思わず君島とスバルも同時に驚愕の叫びを上げていた。 何とかスバルの説得の甲斐もあってか、爆弾の仕込まれたエマージーが配った玩具を二人で回収し終え、奇妙な連帯感と信頼のようなものをお互いに芽生えさせながら現場へと戻ろうとしていた矢先に巨大ロボットの出現である。 状況の把握も出来ず、訳も分からずに驚き呆然としてしまった二人をここで責めるのは酷と言うものだろう。 彼らの後ろからは町の人間たちまで何事かと追ってきて、その場の二人のように呆然とするという連鎖が続いていった。 ……それ程に、このヒーローの出現に誰もが驚き戸惑っていたのである。 「……やはり知ってしまいましたか」 厳かな態度と厳しい視線も顕に相手へと向けながらジグマールはそう言葉を発する。 桐生水守の直談判という来訪、それと共に彼女がこちらへと告白してきたこれまでの彼女が行ってきたこと。 高町なのはとの協力の件については流石に伏せているようだが、それ以外はほぼ概ねジグマールも全て知っていたし予期していたことばかりに過ぎない。 「申し訳ありません。規則を破ったことに対してはどのような厳罰も」 わざわざ自ら正直に告白してきただけあって、その覚悟も既に出来ていると言った様子も明らか。 その潔癖なまでに筋を通した気丈さには、それこそジグマールの方が感心し好感すらも抱いたほどだった。 ……だがそうであるが故に、やはりまだ若い。 否、これは青いと言ってしまって良いとさえいえるだろう。想い人のこともあっての影響か、ある意味においてはこの部分においてならば水守は劉鳳以上だと言えただろう。 やはり、彼女の協力者である高町なのはもまた同じようなものなのかと予測しておく必要もあるだろう。 (……つくづく皮肉であり、厄介だな。本土出身である彼女たちのような者たちの方が、私などよりも余程美しく尊かろうとは) 或いは、穢れを知らぬからこその美しさであり尊さだろうかともジグマールは思った。 「そこまでして貴女は何を求めるのですか?」 だからこそ、試す意味合いにおいても彼女に……否、彼女たちにこれは聞いておかなければならないことだ。 その高潔さ……言い換えれば浅はかな無知と身勝手さで何を彼女たちは求め、そして成そうとしているのかを。 マーティン・ジグマールは見極めねばならなかった。 「―――真実、です」 ジグマールが威厳と共に放つプレッシャーを前にしても……桐生水守はこの時一度も退かずにそう言い切ってきた。 「私は何も知らずに安穏と暮らすより……真実を知って、傷つく方を選びたい」 それが望みであり答えだと、真剣な表情でこちらを見据えながら水守は言ってきた。 (……やはり、青いな) そう正直に水守の言葉を聞き、ジグマールは思った。 それは賢者の行う選択ではない、言うなれば愚者が犯す過ちだと…… やはり、彼女たちの高潔さとは単なる無知と身勝手の裏返しでしかない。 「その為に、私は此処に来たのです」 「―――いいでしょう」 水守の言葉が終わると共に、ジグマールも狙ったように理解の態度を示した。 実際、彼女たちの真意とやらもスタンスとやらも理解できた。 やはり相容れられない……充分に、それは理解できた。 ならば――― 「自分に正直に生きることは大切です」 そう言ってジグマールはデスクに置かれたパソコンのキーボードを叩く。 「ホーリーが……この私が知り得る全ての情報を提示します」 その言葉と共にモニターには次々とホーリーの機密情報が表示されていく。 最初こそ驚き、戸惑いを見せる水守であったが……やがて覚悟を決めたようにその視線をモニターへとハッキリと向ける。 それでいい、そうジグマールはニヤリと笑った。 とくと其の目を開示し、余さずに見届けよ。 そして知るが良い。その高潔さという青さを胸に現実という名の無情を。 マーティン・ジグマールは桐生水守を……そして水守と同類であろう高町なのはへとそう理解を示し真実を提示する。 ならば―――その青さがどれ程に無力でしかないことを思い知らせるその為に……… 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3150.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3158.html
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/38.html
高町なのは フェイト・テスタロッサ ユーノ・スクライア アルフ クロノ・ハラオウン リンディ・ハラオウン プレシア・テスタロッサ 高町なのは フライアーフィン プロテクション シュートバレット ディバインバスター ディバインシューター レストリクトロック ディバイドエナジー ディバインバスター・フルパワー ラウンドシールド スターライトブレイカー フェイト・テスタロッサ ディフェンサー スプラッシュエッジ サイズスラッシュ フォトンランサー アークセイバー セイバーエクスプロード スパークスマッシャー サンダーフォール サンダーレイジ サンダーバレット ライトニングバインド フォトンランサー・ファランクスシフト スパークエンド マルチディフェンサー サンダースマッシャー ユーノ・スクライア ラウンドシールド シーリング ハイプロテクション トランスフォーム チェーンバインド アルフ フォトンランサー・マルチショット チェーンバインド バリアブレイク クロノ・ハラオウン リングバインド ラウンドシールド スティンガーレイ ブレイズカノン スティンガーブレイド リンディ・ハラオウン ディストーションシールド プレシア・テスタロッサ サンダーレイジO.D.J フォトンバレット
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2212.html
海沿いの街道を走る一台の車――その漆黒の車体は、今は夕焼け色に染まっている。 水平線に沈む夕陽を窓ガラス越しに眺めながら、ティアナは重い息を吐いた。 戦闘終了後、事件の重要参考人として任意同行を求められたティアナとスバルは、試験官の一人――フェイトの運転するこの車に乗って、今どこかに向かっている。 ラゼンとラガン――ティアナとスバルが偶然発見し、文字通り二人の手足となってムガン相手に戦った謎の大型ガンメンは、なのはと共に試験会場に残った。 今は時空管理局からの回収部隊の到着をまだ現場で待っているか、或いは既に引渡し手続きを完了して本部に搬送されているかのどちらかだろう。 あの二体のガンメンを本局がどう扱うか――質量兵器として解体されるか、ロストロギア扱いで封印されるか――は、末端の新人に過ぎないティアナ達には解らない。 どちらにしても、本局に没収された二体のガンメンに今後自分達が関わることは、ラゼンとラガンにもう一度会うことは不可能だろう。 結果的に乗り捨てる形で別れてしまった『相棒』達の顔は、少しだけ寂しそうに見えた気がする。 馬鹿馬鹿しい……ティアナは頭を振って己の感傷を否定した。 インテリジェントデバイスならいざ知らず、ただの機械に感情などある筈がない。 自分は些かあのポンコツ共に感情移入し過ぎている、あの悪趣味なロボに情が移ってしまっている。 そんな余裕など無いのだ……ティアナは思考を無理矢理切り替える。 質量兵器――その運用に魔力を用いない兵器の存在を、時空管理局は許容していない。 ミッドチルダでは保有するだけで重罪となる質量兵器で、しかも本来ならばそれを取り締まるべき立場の筈の自分達が、派手に大立ち回りまで演じてしまった。 穴があったら入りたい、寧ろ穴を掘って埋まりたい……暗い思考の無限螺旋に陥るティアナを、隣のスバルがじっと見つめる。 車に乗り込んでから、スバルもまた一言も口を開かず、珍しく真剣そうな顔で物思いに沈んでいた。 普段は馬鹿で能天気なこの相棒も、流石に今回は事態の深刻さに思うところがあるらしい。 言ってみなさいよ……何かを言いたそうに自分を見つめているスバルに、ティアナはそう眼で語りかけた。 「ティア、あのさ……」 ティアナのアイコンタクトに首肯を返し、スバルは神妙な面持ちで口を開く。 「――ラゼンガンの色を、赤に変えてみたらどうかと思うんだ」 その瞬間、ティアナの時は止まった。 「…………は?」 思わず間抜けな声を返すティアナにスバルは続ける。 「あたしずっと考えてたんだけど、ラゼンガンってやっぱりどう見ても見た目悪役じゃん? 顔も怖い上に色まで真っ黒で、小さな子供が見たら絶対泣くよ、アレは。 悪役ロボにも浪漫はあるけど、やっぱり乗るなら正義のヒーローっぽい方でしょ。 顔を変えるとなると装甲全部剥がさなきゃだけど、色変えるだけならペンキ塗り替えるだけでお手軽だし、赤く塗ってもあの子なら絶対似合うよ。男前だもん、ラゼンガン! それで何で赤かとゆーと、あの子って主人公よりもライバルっぽいし、だったら赤が鉄壁でしょ。理屈じゃないんだよ、これは。 赤く塗って速さ三倍、でも現実には1.3倍! その意気込みで」 真面目な顔で馬鹿なことを語るスバルに、ティアナの理性が焼き切れた。 「……こ、の、馬鹿スバル! アンタはどこまで馬鹿なのよ!! そんな馬鹿なことに頭使う前に、もっと他の大切なことに心砕きなさいよこの馬鹿!!」 「ラゼンガンを馬鹿にするなぁーっ!!」 「変なところで逆ギレするなぁーっ!!」 ぎゃあぎゃあと後部座席で揉め合う二人の新人を、はやては助手席からミラー越しに見遣り、「元気やねー」と微笑した。 小高い丘の上に、巨大な顔が乗っている……。 窓の外に見えるその風変わりな建物――螺旋研究所が、どうやらフェイト達の目的地らしい。 「ふえぇ~、でっかぁー……」 感嘆の声を上げるスバルに、ティアナも素直に同意した。 「はやてさん、……あれもガンメンなんですか?」 あんなものが動き出したら、周辺住民の混乱は一体どれ程のものになるだろう……。 畏怖と不安を多分に含んだティアナの問いにフェイトは吹き出し、はやては声を上げて笑う。 「まさか! あのデザインはただの趣味やろ」 「幾らあの人でもそこまで無茶なことはしないよ」 「え~、そんなぁー……」 笑いながらそう否定する二人の言葉に、スバルが残念そうに肩を落とす。 「「……多分」」 ぼそりと続けられた二人の呟きを、ティアナは聞かなかったことにした。 四人がそんなやり取りをしている間に車は坂道を上りきり、目的地に到着する。 フロントガラスの向こうに聳える巨大な顔、その口の部分が音を立てて開き、眼鏡をかけた赤毛の女性――シャリオが四人を出迎える。 「皆さん、螺旋研究所へようこそ。フェイトさんもはやてさんもお久しぶりです」 「シャーリー、久しぶり」 「三ヶ月ぶりやろか? 元気そうで何よりや」 友人達と挨拶を交わし、シャリオはスバル達へと顔を向けた。 「そっちの二人ははじめましてだね。私はシャリオ・フィニーノ、気軽にシャーリーって呼んでね」 そう言って人懐こい笑顔を浮かべるシャリオに、スバルとティアナも肩の力を抜く。 「あ、はじめまして。スバル・ナカジマです」 「ティアナ・ランスターです」 スバル達と交互に握手を交わすシャリオを眺めながら、ふとフェイト達はこの場に肝心な人物が欠けていることに気付いた。 「ねぇ、シャーリー。……ロージェノムさんは?」 「所長なら研究所の奥で待ってます」 研究所の責任者の姿を探すフェイトに苦笑しながらシャリオは答える。 「立場的に言えばあの人がお出迎えしなきゃなんですけど、あの髭面見て皆が回れ右しちゃったら洒落にならないから」 屈託ない笑顔で中々黒いことをのたまうシャリオに、スバルとティアナは顔を引き攣らせ、逆にフェイトとはやては納得したように目を逸らした。 夕焼け色に染まる山肌に仁王立ちするマッシヴな髭親父……嫌だ、嫌過ぎる。 「じゃあ二人も納得してくれたところで、皆中に入りましょうか?」 そう言って先導するシャリオに続いて、スバル達も研究所内部へと足を踏み入れた。 薄暗い廊下を進み、広い部屋へと抜ける……。 その最奥、巨大なモニターの前で待ち構える男の姿に、スバルとティアナは思わず固まった。 3m近い巨身、白衣の上からでも分かる筋骨隆々の肉体、濃い髭に覆われた口元は真一文字に引き結ばれ、禿頭は天井からの光を浴びて照り輝いている。 ……プロレスラーが、科学者のコスプレをしていた。 シュールを通り越してホラーの領域まで達しているその光景に本能的に回れ右をするスバル達を、オーバーS級魔導師二人のバインド魔法が拘束する。 「あ、あの……フェイトさん? はやてさん?」 「な、何か任意同行が強制連行にクラスチェンジしたよーな気がするのはあたしだけでしょーか!?」 「こらこら、どこへ行くの?」 「逃げたらアカンで? 二人とも」 狼狽えるティアナとテンパるスバルに、フェイトとはやては笑いながら釘を刺す。 その笑みは、限りなく邪悪に染まっている。 うわぁ、この人達絶対楽しんでるよ……この時になって漸く二人は、自分達がとんでもない虎穴に足を踏み込んでしまったことを知った。 「ほな、話して貰おか?」 来客用のソファに腰掛け、はやてはそう切り出した。 その漠然とした言葉に、反対側のソファに座るスバル達は顔を見合わせる。 話すとは、一体どこから、何を話せば良いのだろう……? 数秒の逡巡の後、スバル達は取り敢えず、ムガンに襲われたところから話し始めることにした。 試験中、突如ムガンの襲撃を受けたこと。 落下してくるムガンにスバルが立ち向かい、そして見事撃破したこと。 その時にスバルが見せた驚異的な「力」――ティアナはそれをスバルの秘密、戦闘機人としての力の発現と推測している――については、矛先をかわすことを忘れない。 そして地面の崩壊に巻き込まれ、落ちた地下空洞でラゼンガンに出会ったこと。 そしてそれに乗って地上に戻り、ムガンの大群をほぼ全滅まで追い込んだこと。 全てを話し終えたスバル達に、フェイト達の後ろで話を聞いていたロージェノムが口を開く。 「……それだけではないだろう」 重々しく紡がれたその一言に、ティアナ達の肩が大きく震える。 まさかスバルの秘密に感づかれたのか……? 絶望的な表情を浮かべてロージェノムを見上げるスバル達だったが、しかし目の前の巨漢の言葉は別の方向へと続いた。 「ラゼンガンは魔力炉を搭載しているが、それはあくまで補助動力だ。主動力炉――螺旋エンジンの稼動、何より中枢システムであるラガンの起動には「鍵」を必要とする。 お前達は持っている筈だ、ラゼンガンを目覚めさせる「鍵」――コアドリルを」 そう言ってロージェノムが白衣のポケットから取り出した何か――金色に輝く小さなドリルに、スバル達は息を呑んだ。 「それ、スバルのペンダントと同じ……」 呆然と呟くティアナに突き動かされるようにスバルは胸元に手を突っ込み、ペンダントを引っ張り出す。 ロージェノムの手の中を転がるコアドリルとスバルの手の中に握られるコアドリル、二つのコアドリルはまるで共鳴するように明滅を始める。 「これ……一体何なんですか?」 ティアナの口にした疑問の言葉に、ロージェノムではなくはやてが口を開いた。 「コアドリル。螺旋力――気合いをエネルギーに変える力を増幅させるロストロギアや」 「気合いをエネルギーに変える力……ですか?」 頭の上に疑問符を浮かべるスバル達に、はやては首肯と共に続ける。 「そや。このロージェノムさんの世界では魔力の代わりにその螺旋力を利用した文明が発達しとってな、この螺旋研究所ではその技術を魔法理論に応用する研究をしとるんや」 ガンメンもその研究の成果なんやでーと話すはやての言葉を、二人は感心したような表情で聞き入る。 しかし不意にあることに気付き、スバルが慌てたような顔で声を上げた。 「って、ちょっと待って下さい! このペンダントがロストロギアだってことは、コレ本部に没収されちゃうってことですか!? 嫌ですよあたし、そんなの!!」 駄々を捏ねる子供のようなスバルの突然の言動にはやて達が唖然とする中、ティアナがフォローを入れるべく口を開いた。 「このペンダントはスバルの宝物なんです。四年前の空港爆破テロの時、命の恩人から貰った大切な物だっていつも話してました」 「そうなんか?」 はやての問いにスバルは首肯し、当時の体験を話し始めた。 崩壊炎上する空港の奥に独り取り残されたこと。 熱さと苦しさと心細さに泣いている自分の前に『あの人』が現れ、そしてこのコアドリルを託してどこかへ消えたこと。 お前の拳は天を突く――『あの人』の口にしたその言葉に励まされ、上を向いて歩けというその教えに突き動かされて今まで生きてきたこと。 全てを語り終えたスバルを、ロージェノムが驚愕の表情――余りに微妙な変化だったので、シャリオ以外は気付かなかったが――で見下ろしていた。 「……シモン」 ぽつりと呟かれたその名前に、はやて達が顔を上げる。 「シモンって……所長が前に話してた穴掘りの人ですか?」 事情を知る面々を代表して問うシャリオに、ロージェノムは重々しく頷く。 「知ってるんですか!? あの人を!!」 驚愕にソファから立ち上がるスバルと、話の展開に置いていかれているティアナを交互に見遣り、はやてはやんわりとした笑みで頷いた。 「判断材料不足で断定は出来へんけどな。シモンさんっちゅーのはロージェノムさんの世界の英雄で、恋と気合いで宇宙を救った男や。 ロージェノムさんと一緒に戦っとったって話やし、その時炎とグラサンのエンブレムつけたコートも着とったって話やから、可能性としては有り得へん話やない」 はやての言葉に、スバルは放心したような顔で再びソファに身体を沈めた。 「さて、それじゃあ今度は二人の今後のことなんだけど……」 話が一段落したところで、今度はフェイトが口を開いた。 「今回ムガンの襲撃で中止になった二人の昇級試験は、近い内に再試験ってことになると思う。詳細は追って連絡するね。 ラゼンガンの無断運用については、あの状況では仕方の無い行為だったし、それにアレをあんな場所に放置したロージェノムさんが全面的に悪いから、二人に責任は無いよ」 再試験、お咎め無し。 特に後者を耳にして、ティアナは大きく胸を撫で下ろした。 「で、や。ここからが本題なんやけど……」 フェイトから話の主導権を取り戻し、はやてはそう言いながら二人に顔を近づけた。 「実はウチな、今度新しい部隊創るんよ。 なのはちゃんもフェイトちゃんも、シャーリーとロージェノムさんも、皆その部隊に入ることになっとるんやけど……二人も一緒にどうや?」 新部隊への勧誘……はやてからの突然の誘いに、スバル達は思わず顔を見合わせた。 「何で、いきなり訊くんですか? そんなこと……」 控えめに尋ねるティアナに、はやては何かを含んだような笑みでこう答える。 「元々二人のことは目を付けとったんよ。それと昼間のアンタら見てて、これは是非とも欲しいなー思うた」 逃がさへんよーと笑うはやてに、二人はまたもや顔を見合わせる。 「それで、その部隊はどんな部隊なんですか?」 良くぞ訊いてくれました……はやてはソファから勢い良く立ち上がり、拳を握りながら名乗りを上げる。 「遺失物管理部機動六課――根気と根性でロストロギアを回収して、気合いでアンチスパイラルとガチ合う超実動実戦部隊や!!」 「どっちかというと、後者の方が本音っぽいかな?」 簡略的極まりないはやての言葉に、フェイトが横から補足を入れる。 「この数ヶ月間の螺旋研究所の調査で、ムガンの出現パターンが大体分かってきたの。 レリックとコアドリルという二つのロストロギア、そしてスバルちゃんみたいな強い螺旋力を持つ人間、そのどれかのある場所に、ムガンは現れる……。 私達機動六課はムガンの出現予測地点を先読みしてこれを撃破、ロストロギアの確保やターゲットにされた人間の保護を目的としているの」 フェイトの説明を表情で聞き入るスバルが、その時口を開いた。 「……じゃあはやてさんの部隊に入れば、あの人に会えるってことですか?」 螺旋力については未だよく解らないが、コアドリルを持っていた『あの人』もきっとその持ち主なのだろう。 機動六課はそんな人間を保護するのが仕事、ならばあの人に出会える可能性は高い。 「断言は出来ないけど、可能性はあるね」 フェイトの返答に、スバルの決意は固まった。 「……やります! やらせて下さい!!」 「スバル!?」 あっさりと決断した親友にティアナが声を上げるが、スバルの瞳の奥に渦巻く決意の炎に揺らぎは無い。 駄目だ、これはもう梃子でも動かない……諦めたようにティアナは嘆息し、「アタシも」と機動六課入隊に了承の返事を返す。 「ティア?」 驚いたような顔で自分を見つめるスバルに、ティアナは苦笑しながら肩を竦める。 「アンタ一人じゃ危なっかしくて見てられないからね、アタシがフォローしなくて誰がするのよ? それにアタシにも夢がある、出来ることがあれば何でもやっとかなくちゃね」 執務官を目指すティアナにとって、現役執務官のフェイトの下という環境は大きなプラスとなる。 感謝しなさいよーと指先でスバルの頬を突くティアナに、はやては「決まりやな」と破顔する。 「それじゃー二人は今日から機動六課の前衛兼、対ムガン用魔導兵器ラゼンガンのパイロットや」 「「ラゼンガン!?」」 思いがけない名前が思いがけないタイミングで再登場したことに、二人は思わず声を上げる。 話の流れからあのロボがこの研究所の物であるということは薄々分かっていたが、まさか自分達がそのパイロットになってしまうとは思いも寄らなかった。 「ラゼンガンの起動にコアドリルは必要不可欠らしいから、スバルちゃんのそれは自分で持ってて良いよ」 「本部に行けばぎょーさんあるんや、一個や二個着服しても誰も文句は言わへんて。どーせロージェノムさんが来るまで使い方も分からん代物やったしな」 フェイトとはやての言葉に、コアドリルを握り締めていたスバルの手から力が抜けた。 「それじゃあ正式にラゼンガンを任されるおとになった二人だけど……」 ラゼンガンの所有者であるロージェノムを無視して、シャリオはスバル達に項を向ける。 「何かアレについて二人から希望とか意見とかあるかな?」 シャリオの問いに、二人は同時に口を開いた。 「シートベルトを付けて下さい!」 「ラゼンガンの色を赤にして下さい!!」 二人の答えにシャリオ達三人は爆笑し、ロージェノムは独り何かを言いたそうな顔で沈黙していた。 天元突破リリカルなのはSpiral 第5話「皆さん、螺旋研究所へようこそ」(了) その後……。 「さて、それじゃー話も終わったことやし……」 ソファから立ち上がり、はやてはその場の全員を見回しながら口を開いた。 「――皆、後片付けに戻ろか?」 そう言ってはやてが指差した先――未だ点け放しの壁面モニターには、更地と化した第七特別演習場の惨状が映し出されていた。 戻る 目次へ 次へ